「取り残されるあせり」を捨てたら気が楽になって(高橋氏 38才) |うつ病・抑うつ状態・双極性障害(双極Ⅱ型) カウンセリング治療専門外来(職場のストレス)

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「取り残されるあせり」を捨てたら気が楽になって(高橋氏 38才)

部下の退職のをきっかけに管理能力に自信をなくし

高橋氏はシステム・エンジニア。毎日夜遅くまでプログラムに取り組んでいた。そんなおり、一番信頼していた部下が突然退職を申し出てきた。聞いてみるともっと条件のいい、しかも自分がやりたかった海外での仕事が可能な会社に移るという。「そんな急なことで、今のプロジェクトの責任はどうなってもいいと言うのかね」「そりゃ責任は感じます。けど、課長は任せているようで僕に任せてくれていませんよ。全部自分で把握しないと気のすまない性格で。やりにくいんですよ」と、強気の反論が返ってきた。

部下の言葉は高橋氏にショックだった。信頼して相談もし、任せてきたと思っていたのに。結局は自分の管理能力の足らなさが、今回の退職をひきおこしたのか。一人一人が必死になって取り組まないとまわっていかないプロジェクトだけに、高橋氏のショックもかなり大きなものがあった。

不安感から夜眠れなくなり

「アイツのあの言葉、表情、オレをそんなふうにみてたのか」、と夜寝ようと目をとじると部下の顔がうかんでくる。一人ぬけたせいで、自分が部下の分もカバーしなくてはいけなくなった。寝不足の身にまちがいの許されない仕事はきつかった。「課長、このごろお疲れですね。ぼんやりしておられるときが多いですよ」と、いう声もかかってくる。ひそかに「働く男性のストレス度チェックリスト」なんかもためしてみると、かなりあてはまる項目がある。「あー、おれはもうだめだ。うつ病になってしまった」と思うと、ほんとうにうつ病になったような気がする。

夜中に不安な気持ちがどうしてもとれず不眠がつづきだし、とうとう高橋氏は遅刻や欠勤が増えてきた。


【働く男性のストレス度チェックリスト】(淀屋橋心理療法センター作成)

ときどきめまいを感じることがある。

耳なりがすることがある。

肩がよくこるようになった。

なかなか疲れがとれない。

胃の調子が悪く、胃薬をのんでいる。

便秘または下痢を繰り返している。

もやがかかったようで、頭がスッキリしない。

疲労回復のドリンク剤をのんでいる。

休日、家族とでかけるのがおっくうである。

手のひらや脇の下に汗が出ることが多い。

ささいなことで怒りっぽくなる。

胸がきりきりと締めつけられるような感じがする。

よく風邪をひき、なかなか治らない。

朝起きると体がだるく、疲れが残っている。

仕事に対してやる気がわかない。

寝付きがわるく、夜中に何度も目を覚ます。

仕事から帰ると、すぐごろっと横になる。

ときどき動悸をうつことがある。

手足が冷たいことが多い。

休日、テレビの前でゴロゴロしている時間が長い。

血圧が上がったような気がすることがある。

舌がしろっぽくなっていることが多い。

他人の欠点ばかりが目につき、いらいらする。

以前にくらべると、疲れやすくなった。

最近食欲がなく、体重が減っている。

ときどき鼻づまりやくしゃみに悩まされる。

夢をみることがよくある。

背中や腰が痛くなることがよくある

ついくどくどと、上司のぐちをこぼしてしまう。

最近会社に遅刻しがちである。


妻が「うつ 家族」でインターネット検索してみて

高橋氏はとうとう布団からでてこれず欠勤がつづき、上司から専門家の診察を受けるようすすめられた。心配した妻は、インターネットで「うつ 家族」のキーワードで検索をしてみた。すると該当する診療所やカウンセリングオフィスがずらっとでてくる。そのなかで「家族にも対応のアドバイスをさしあげます」と書いてある淀屋橋心理療法センターに目がとまった。

「お父さん、あなたがしんどいときは私が行ってもいいみたい。あなたにどうすればいいか、教えてもらえるんですって」と妻が言う。「それならいいな。行ってみようか」と、高橋氏はこたえた。「しんどくて外に出たくない時もある。そんなときは妻だけが行っていいのなら、助かるな」と、内心ホッとしていた。

三ヶ月で改善のきざしが見えてきた

妻と二人のカウンセリングがスタートした。毎回課題がだされる。「ホッと気持ちが休まるものをみつけましょう」とか「夜、奥さんといっしょにお茶をのんでください」といったやさしい課題が中心だが、高橋氏本人にとってはしんどいときもあった。が、次回のカウンセリングでじっくり話をきいてもらい、アドバイスをもらう。こんな密着した対応がよかったのか、三ヶ月たったころから少しづつ改善のきざしがみえてきた。

「一日中、フトンでごろごろしてたけど、起きあがってテレビがみられるようになりました」

「妻と家のまわりを散歩をしています」

「夜のプロ野球観戦も楽しくなりました。今年は阪神が強いし、みがいがありますね」

「小学生の子どもの宿題、少しくらいならみてやれます」

「なかなか良いきざしですね。この調子でいきましょう。順調に回復していますよ」というカウンセラーの言葉もうれしかった。

しかしこのまますんなりいくとは思えない。職場うつから休職している大抵の人に言えることだが、現場への復帰意識が強まってきたときに直面する不安感との戦いがやがてやってくるだろう。もう一山こさないといけない。そのしんどい時がまもなくやってくる。

「ポジションがなくなってしまう」あせりで悶々と

カウンセラーの予告どおり、その一山は一月ほどしてやってきた。新聞を読んだり、テレビでニュースをみたりできるようになって、高橋氏は「やれやれこれで自分も、もう一度社会へもどれるな」と思いだしたのはよかった。しかし同時に「こんなのんきなことしててええんやろか。みんなから取り残されてしまう」といったあせりの気持ちが、苦しいほどこみあげてくるようになった。

システムエンジニアという日進月歩の技術革新の世界である。技術的にまわりについていけるだろうかという不安感も強い。「はよ、職場にでんといかん」「自分のポジションがなくなってしまう」といった、現実感をともなったあせりと焦燥感にさいなまされだした。

「いよいよ最後の難関がやってきましたね。ここを乗り越えたら、きっと仕事に復帰できる日も近いですよ。奥さんの力をかりながら、いっしょに乗り切っていきましょう。どんな不安やあせりがあるか、奥さんに話してください。それを奥さんは書き留めて、次回もってきてもらえますか。現実に対応できるよう、不安やあせりを乗り切る力をカウンセリングでつけていくのです」。

「あー、ビールがおいしい。この店気に入った」と笑顔が

『不安やあせりを乗り切る力をつけていく』というカウンセラーの言葉はうれしかった。目標がしっかりと定まったような気持ちになれた。それからさらに三ヶ月。高橋氏と奥さんは熱心にセンターに通い、カウンセリングを受け続けた。様子をみながらその都度二人にあった適切な課題がだされる。

日がたつにつれ高橋氏に変化がみられだした。これまでは「オレはこの課題をやらされてる」「なんでこんなに次から次へとせなあかんのや」と、ぶつぶつ言いながらこなしていた。それがいまでは「朝はよう起きて散歩したら、『まあなんとかなるかな』ってゆう気になってきましたわ」と、ゆとりのある言葉が聞かれだしたのだ。「あせってもどうにもなりませんな。それよりおいしいもん食べて、飲んで、ゆっくりいきますわ」と。

どうやら散歩しながら気にいったお店がいくつか目にとまったようだ。夜、奥さんをさそってでかけてみようということが2~3回あった。「あー、ビールがおいしい。この店気に入った」と笑顔がでてくるようになった。

「あせり」を捨てて「ゆとり」で復職

高橋氏にふたたび「ゆとり」がもどってきた。「主人もかわりました。こないだなんか新聞を読みながら、鼻歌を歌ってるんです」と報告が。疲れて、以前ならイライラして言葉が荒くなったりしていたが、それなりにおだやかに言えるようになっている。

先日のカウンセリングで高橋氏はしみじみとこう話した。「抑うつになるまえは、私は必死で仕事をやってきました。『結果ださな、成果あげな。それでないと値打ちない。おまえら何しとんや。オレが一番やっとんやぞ』という気持ちでした。自分一人で成果をあげていたと思っていましたが、部下のみんなが協力してくれて、下ざさえしてくれてたからこそやれてたんやなって。部下が私から離れていったのも無理はないって、今なら思えます」と。

高橋氏はカウンセリングうけて半年がたつ。「あー、長いこと、そんな感情わすれていたなー」と思えることがいくつかあるそうだ。 お風呂上がりに、「お湯にゆっくりつかるだけでも、こんなに疲れがとれるんやな」と、しみじみと感じられるのもその一つだという。

「これなら復職も近いし、職場でなにかあっても自分なりの「ゆとり」で乗り越えられるだろう」と、カウンセラーはひとまず安堵した。

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