不登校…休み始めたらすぐ動く!

「見守りましょう」の落とし穴

新学期のスタートをきっかけに再登校できる子もいれば、機会を逃して休み続ける子や、新しい環境になじめず休み始める子もいます。とりわけ、不登校に縁のなかった親御さんにとっては新学期早々のつまずきは大変なショックだと思います。しかし、そういった状況にも関わらず当センターの相談の電話が集中するのは大体5月の半ば頃なのです。来所された親御さんにその理由を尋ねると「親が焦るとダメ」「子どもの自主性を尊重した方が良い」「様子を見守ってあげれば自分で動く」「心の傷が癒えるまで休ませてあげなさい」等、不登校の本に書いてあったり、専門家や友人に言われたりしたために「見守っていた」そうです。確かに無理をしない分、安全策のようにも思えます。しかし「早期」に「再登校にこぎつける・悩みを解消する」を望むご家族やご本人にとってはどうでしょうか。少なくとも私どもの経験では「NO」です。一部の例外をのぞき、長引くほどに弊害が生じ、対応にも骨が折れます。

長びくことで変わる「不安」

不登校が長びくことで、不登校の理由そのものが変わってしまうことがあります。例えば休みはじめるきっかけが「A君にイヤなことを言われた」や「授業で間違えた答えを言ってみんなに笑われた」だとします。でも、長く休んでいるうちに「みんなどんな風に思ってるんだろう」「休んでた理由を聞かれたら何て答えたらいいだろう」「A君以外の子にもイヤなことを言われるんじゃないか」と、気になることが変わったり広がったりするのです。その理由で当センターの所長がよく例にあげるのが「人間のいきづまり」と「機械の故障」の違いです。機械は故障してしまえばそのまま止まってしまい原因さえつきとめれば解決します。でも人間は違います。動きが止まった(不登校)としても、毎日もがき、悩みつづけているのです。「いじめ不登校」もこれと良く似ています。いじめた子を叱ったり、「もういじめない」という言葉だけでは解決しないのです。

「息継ぎ」はできていますか?

不登校ギリギリの悩みを抱えている子でも、一日登校できると続けて二日三日と登校できる場合があります。これは「勢い」のお陰です。ただし、勢いだけで登校している子は週末が要注意。休みをはさむことでせっかくの勢いが衰えてしまい、「楽な休日」と「しんどい学校」の違いをいっそう強く感じてしまいます。また、辛抱強い子でも、四月をなんとか乗り切ったとしてもGWが待っています。飛び石連休に加え、一ヶ月間たまったストレスも我慢の限界です。このように休日を境に休み始める子の多くは、日ごろからストレスを吐き出す「息継ぎ」が上手にできていない子です。逆に、毎日うるさいほどグチる子の方が息継ぎが上手にできる分、言っている割にはストレスは溜まっていないのです。

「気まずさ」と「気軽さ」

不登校はまだまだ「難病・奇病」のように扱われる傾向にあります。「下手にさわってこじらせたら大変」「学校の話題は避けた方が・・」など、まるで不登校の子が「腫れ物」のような扱いをうけることがあります。当の本人も休み始めはイライラしたり部屋にこもったりと、人を寄せつけない雰囲気を作り出してしまいます。しかし、家族が遠慮して声かけをひかえたり、担任も下手に刺激しないために家庭訪問をひかえるといった方法は、本人との「気まずさ」を助長するだけで、解決の見通しはなかなか開けてきません。休んでいても家族とは気軽に会話をかわし、学校の情報も頻繁に入ってくるという状況が早期解決には欠かせないのです。

休み始めたらすぐ動く!

担任の先生

不登校の子がまず気になるのは勉強面よりもクラスの動向、つまり「人間模様」です。自分の不登校は噂になっているのか、気になるあの子はどんな様子なのか、休み時間はどんなムードか、今はどんなグループに分かれているのか、みんな順調に登校しているのか、自分の席の周りには誰が座っているのか・・。こんな情報が電話やメールを通じて入ってくれば、学校は休んでいるもののクラスのイメージが浮かびやすく、あたかも登校しているかのような気分を味わえます。こうすることで、再登校時に自分がどんな振る舞いをしたら良いかといった、段取りや心づもりがつけやすくなります。さらに、この情報を家庭訪問で流していただければ、先生に対する親近感・安心感も増します。本人が会いしぶる場合は親と話すだけで十分です。回を重ねることで近づいてきたり、親を通じて質問をしてくることも期待できます。情報量と訪問(電話・メール)の頻度は多いほど効果的です。

親御さん

日ごろから「息継ぎ」が大事だということは説明しました。この息継ぎの中身はたいていがその日の出来事に対する「グチ」か、翌日の事が気になってでてくる「不安」です。この二つがしっかり話せることが何より大切です。ただし、一般的にはグチは「なだめる」、不安は「なぐさめる」という対応が取られますが、それでは不登校に至った子は満足できません。「自分の辛さをわかってもらえない」と感じてかえって口が重たくなることもあります。意外とガンコなのです。もちろん、グチや不安をだれかれ構わず話されては困ります。でも相手が「親」限定なら許されます。外でニコニコ、家でグチグチは「あり」なのです。担任の先生と連携できればさらに効果的です。電話や訪問で得た「情報」を、子どもさんと共有して下さい。そして、その情報から感じることを存分にしゃべらせてやり、しっかりと聴いてやって下さい。それだけで登校につながることがあります。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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