心身症タイプの不登校

「心」のストレスが「身体」にでる「心身症」

古くから「病は気から」と言われるように心と身体は密接に結びついていて、互いに影響を与えあっています。では、心のストレスが身体の症状となって現れる心身症はどうして起こるのでしょう。そのメカニズムを簡単にご紹介します。

まず、いじめや学業不振などを経験すると「怒り、憎しみ、悲しみ、恥ずかしさ」などの感情(心のストレス)がわき上がってきます。それらの感情は大脳の中の辺縁皮質でキャッチされ、すぐ下の視床下部に伝えられます。これらの感情が溜まりに溜まって許容範囲を越えてしまった場合、視床下部に影響を及ぼします。視床下部には二種類の自律神経が集まっています。一つは各器官の働きを活発にする「交感神経」、もう一つはその働きを静める「副交感神経」です。両者は互いに調和をたもつことでうまく機能しています。視床下部でキャッチされた感情が交感神経を刺激することで各器官の働きが活発になるわけですが、この刺激が強すぎると自律神経がバランスを崩し、頭痛、腹痛、下痢など身体の変調をきたしてしまうわけです。

S.O.S. その1「言いたいことが言えない」

心身症タイプには気もちの優しい子が多く、どうしても相手のペースに合わせがち。「しんどいけど誘いをことわったら嫌われるかなー」「わからないことを聞きたいけど、先生は忙しそうだしなー」など、いつも相手中心に物事を考えてしまいます。

こんなタイプの子が言いにくいのは「不満」「悪口」「ことわり」など相手がイヤがりそうなこと。「不安」「悩み事」なども「相手に心配をかけたくない」と考えて言いにくくなります。言いたいことが言えずにいると、それがストレスとなってドンドンたまっていってしまいます。それが限度を超えると身体の方が悲鳴をあげてしまうわけです。

S.O.S. その2「自分らしさがわからない」

意外と見落としがちなのがこのポイントです。たとえば、周囲から見ると「ゆっくりテンポ」なのに、本人にはそういった自覚が全然ないということがあります。ゆっくりテンポの子は、自分であせっても人からせかされても動きがぎこちなくなります。それがわからずに行動すると心(頭)と身体のバランスを崩しやすくなります。

同じようなことが「友だちづきあい」にもよく見られます。先生が見かけた時はいつも友だちとニコニコと話をしている。一人ぼっちのことがなく、いつも誰かと一緒に行動している。この子は友だちづきあいは大丈夫だ・・。ここに落とし穴があるわけです。無意識のうちに相手に合わせてしまっているのかもしれません。こんな子は顔ではニコニコしていても、心の中では「おもしろくないなー」「なんかしんどいなー」と思っているかもしれないのです。

アドバイス編

緊張感が高まる話でもできる子に。「会話の主導権」が対応のキーワード

私どもでは会話を重視します。生徒さんのペースで会話をすすめることができれば、言いにくいことでも言えるようになり、それだけでずいぶんと気が楽になります。そのため、生徒さんが一言しゃべったら、先生は相づちやオウム返しで継ぎながら、次に出てくる言葉を待ってみて下さい。心身症タイプの子は「気づかいのベテラン」が多いですから、「相手が気にしそうなこと=強い緊張感」となって言いにくいのです。根気づよくつきあっているうち「勉強がわからないから学校に行きづらい」「友だちがいなくてさびしい」などの「感情」が出てきたら大成功。感情を出し慣れていない子はここで強い緊張感を味わいますが、緊張感は「避ける」より「慣れる」ことで免疫力をつけることができるのです。

一方、返事が待ちきれず次々と質問したり、「なぐさめ・はげまし」等には注意が必要です。会話が途切れたり主導権が先生にうつってしまう可能性があります。

自分の得手・不得手をしっかりと認識し、自分らしくふるまえる子に

こんなタイプの子がカウンセリングにやってきた時、私どもでは親御さんへの対応のアドバイスと共に、本人にも自覚をうながすアドバイスをお出ししています。たとえば、先生が「昨日は何してた?」と質問したとします。すると本人は「うーん・・・ちょっと勉強して・・本屋にいって・・」と、緊張した面もちでなかなか話が進みません。そんな時「じっくり考えてゆっくり話すのが君の持ち味みたいだね。その調子でいいよ」と、自覚をうながすと同時に、自分らしくふるまって良いことを伝えてあげます。すると、回を重ねるごとに本人の口数が増えてきたり、リラックスした感じで会話ができるようになってきます。

友だちに対する気づかいはなかなか減らせませんが、自分の持ち味がわかり、先生や親に対して自分らしくふるまえるようになるだけでも症状から立ち直るきっかけとなります。

先生からみた「心身症タイプ」チェックリスト

体の不調をよく訴えるが、症状が変わりやすい。

よく迷い、決断に時間がかかる。

日ごろから穏やかで不平・不満をあまり言わない。

先生からの問いかけには必ず返答する。

勉強がわからなくても質問にやってこない。

友だちと話す時はいつもニコニコしている。

作文を書かせると良いことばかり書く。

注意しても言い返さない。

「べつに・・」「まあ・・」など単発表現が多い。

家庭訪問してもイヤがらずに会える。

2019.04.17  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

シリーズ記事

1.小学生の不登校

原因不明の不登校 「いじめはないみたいだし、勉強にもついていけてるはずなんだけど・・」。小学生の我が子が登校をしぶりだしたものの、はっきりした原因がわからない。原因がわからないから強く押していいものか、無理をさせない方が […]

2.心身症タイプの不登校

「心」のストレスが「身体」にでる「心身症」 古くから「病は気から」と言われるように心と身体は密接に結びついていて、互いに影響を与えあっています。では、心のストレスが身体の症状となって現れる心身症はどうして起こるのでしょう […]

3.摂食障害(過食症・拒食症)の家族療法

ここ十年間で十倍に増えた摂食障害(過食症・拒食症) 淀屋橋心理療法センターで二番目に相談の多い摂食障害(過食症・拒食症)が、ようやく一冊の本にまとまりました。店頭に本が並んだとたんにテレビ局から取材依頼が舞いこんでくるな […]

4.対人恐怖症・対人緊張症タイプの不登校

「対人恐怖症・対人緊張症」とは・・・ 「人と目が合わせられない」「周囲の視線が気になる」「人と話をするとドキドキする」「自分の態度が相手に不快感をあたえているのではないか」。このように、人と接する時の辛さ・しんどさを訴え […]

5.非行タイプの不登校(非行っぽい子の意外な素顔)

「非行」は「怠け」? 学校はちょくちょく休むし、来たかと思えば遅刻に早退。まじめに勉強する気もないみたい。おまけに茶髪・ピアスに服装違反。きびしく注意しても効き目なし。親の注意もなんのその。いつも帰りは午前様。いったいこ […]

6.不登校…休み始めたらすぐ動く!

「見守りましょう」の落とし穴 新学期のスタートをきっかけに再登校できる子もいれば、機会を逃して休み続ける子や、新しい環境になじめず休み始める子もいます。とりわけ、不登校に縁のなかった親御さんにとっては新学期早々のつまずき […]

7.明るい不登校

急増する「明るい不登校」 不登校になった初めのころは部屋にこもったり、親と口をきかなかったT夫。今ではTVをみて笑ったり、雑談もできるほどに落ちついてきた。気分のムラもなく学校に行っていないことを除けばいたって普通。そん […]

8.家庭内暴力(子が親や兄弟姉妹へ暴力をふるう)タイプの不登校

内面(うちづら)と外面(そとづら) 家庭で荒れる子の多くは、学校ではおとなしく目立たない子が多いようです。注意をしても反発する様子もないし、口ごたえもしない。むしろ扱いやすい子かもしれません。ところが、家庭での様子をきく […]

9.いじめ不登校

「長いものには巻かれろ」 ひと昔前ならクラスに一人二人は「正義の味方」がいたものです。それが今では「長いものには巻かれろ」主義が横行し、いじめられた子をかばうとその子までがいじめられてしまう世の中になってしまいました。「 […]

10.ぎりぎりタイプの不登校(高校生のギリギリ再登校)

ギリギリ再登校を願う気持ちに変化が・・ 三学期に入り、あっという間に二月三月・・。とうとう学年末を意識する時期になってしまいました。これまで「一日でも早く再登校を」と望んでこられたご両親や先生方。不登校が長期化してこの時 […]

関連記事

まず荒れる子を落ち着かせ、暴力をおさめることが最優先

圭介(中2父親との葛藤から家庭内暴力に)のケースを紹介しよう。 面接室には母親が一人座っていた。「こんにちは、息子さんのことでお困りと聞きましたが」という問いかけに、母親は「はい、そうなんです」と意外に明るい声で答えた。 […]

2015.07.09

【小学生の不登校】弟や妹をいじめる子

小学生の不登校の子にとって、気になる事は「再登校」「勉強の遅れ」「友だち」だけとは限りません。意外と家庭の中にも気になる事があるのです。その一つが「弟・妹」たちです。 特に弟や妹が小さい場合(0才~幼稚園)、どうしても母 […]

2021.01.15

令和3年みっつの明かり

当センターでは、治療を進めていく中で親子の相性が良くなることは大切な要素のひとつです。 親子関係がうまくいき始めると、その過程で子供には色々な良い変化が起こってきます。 新年はじめは、3組の親子の明るい笑いをお届けしたい […]

記事一覧へ