精神科医になって二六年、家族療法をスタートしてからも早や二十年近くがたちます。多忙な面接のあいまにふと振りかえって思いをめぐらせてみました。
精神科医、心療内科医、心理療法家には、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは難しいケースから取り組むタイプです。とても困難な状態に飛び込んで、なんとか事態を解決しようとする専門家たちです。もう一つは簡単な自分で解決できるケースから取りかかろうとするタイプです。一番目のタイプは情熱的な人が多く、最初は勢いもあるのですがやがて燃えつきていくことが多いようです。そんななかクールや達観した人がしばしば生き残っています。二つ目のタイプは現実的で元気な人が多いように思います。
私はどちらのタイプに属するかというと、明らかに後者でしょう。幸い自分のできる範囲に治療の対象を限定し、また治療への意欲の強いクライエントやその家族を診てきながら成長してきた精神科医です。自分のオフィスを持つようになったからこそできたことですが、なるべく「自分が解決できる」と、はっきり言えるケースばかりを対応するように心がけてきました。そうすることで今でも燃えつきることなく、ますますやる気に満ちています。気がついたらいつのまにかなかなか他の専門家たちは治しにくいケースまで解決できるようになってきました。自分は専門家として心理療法の達人になりたかったのです。つくづく簡単なケースから取り組みはじめてよかったと思います。自分の戦略がまちがっていなかったと、ホッとしているこの頃です。
淀屋橋心理療法センター
福田 俊一(所長、精神科医)
