3.「料理教室へ行きたい」が、外出のきっかけに|ひきこもり カウンセリング治療専門外来 ニート(NEET)

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3.「料理教室へ行きたい」が、外出のきっかけに

得意料理「ポテトサラダ」にこだわって

カウンセリングをスターとして半年が経過したころの面接室での会話である。

「美子さんの得意なお料理はありますか?」という質問に、待ってましたとばかり美子は答えた。「はい、あります。ポテトサラダです」。「そうすか、ポテトサラダですか」と、カウンセラーは繰り返しの相づちをうって、美子が話しやすい雰囲気を準備した。(以下は面接室での会話である)

美子:あのね、じゃがいものゆで方がポイントなの。ゆですぎたら、おじゃん。固すぎたらうまくつぶせない。

カウンセラー:なるほど、ゆで方ですか。

美子:ストップウオッチでね、時間はかってゆでます。お母さんはめんどくさがりますけど、私はそのほうが安心だから。

カウンセラー:美子さんらしさがでてきましたね。

母親:美子といっしょに料理作ると、量から時間からもうたいへんですわ。きちっとしてますので。

美子:お母さんがええ加減なんよ。ちょっと反省したら。

カウンセラー:おやおや、お母さんにしっかりと反発もできだせましたね。なかなかいいですよ。

美子:それからね、きうりを細く輪切りに切って塩でもむの。このときの厚みがポイント。 きうりの厚みがあると、舌ざわりがね、なんかあつーくって、おいしくないから。 それとね、マヨネーズも難しい。すっぱすぎるのもダメ、甘すぎるのもダメ。 そいでね、わたし遠くのマーケットまで買いにいってね、フレスコっていうちょっと高級なとこだけど、そこでとってもおいしいマヨネーズ見つけたの。あれでないと。私はあれしか使わない。

美子のお料理談義はまだまだ続いた。母親とカウンセラーが、競争でうなづいたり、相づちをうったりして聞き入っていると、うれしいのか、顔も目も輝いている。そしてとうとう次の面接の日には、先生に食べてもらうから、ポテトサラダをつくってくるという話にまで発展した。

美子の頭のなかは、聞いてほしい言葉がいっぱい

「得意なことでならここまで話せる」「体験したことなら、なおさら流れるように言葉が出てくる」、母親は面接室で話す美子を見て、本当にそう感じた。カウンセラーは母親にもう一つ大事なアドバイスをつけ加えた。「美子さんは、お母さんが思っておられる以上に話し好きな方です。ただポテトサラダ一つにこだわるあまり、次から次へと材料や調理法に工夫がわいてこられて。頭の中が整理できないんですね。こんな中から『今、ここで適切な言葉を取り出さなくては』という状態におかれると、あせってしまってしまって、うまく話せなくなるんです」。

「たしかに美子には、小さいころからそういうところがあります」と、母親は話した。小さい頃から話そうとすると「これがね、そいでね、ああしてね、えーと、えーと、うんもう!」と、言ったかんじでなかなかうまく話せなかった。自分でもはがゆいのか、癇癪をおこしてしまったりして。それで友達ができなかったり、できても長く続かなかったりした原因の一つだろう。学校の先生の質問にもすぐに答えられず、立たされたりしたこともあるという。この頃から学校、先生、宿題という言葉に、いやな気持ちを持ち始めたのかもしれない。

「こういう子を伸ばすこつは、『ゆっくりと時間をかけて、話を聞いてあげること』です。話を聞いてもらい、自分が思いの丈話せたとスッキリしたら、意外にすんなり動けるし話せるようになりますから」と、カウンセラーは母親に説明した。

母親もこう言った。「たしかにおっしゃることは、わかります。初めのころ美子のこだわりには、もうまいりました。でもね、先生、だんだんおいしくなっていくんですよ。ポテトサラダが。ほんとうにおいしいなって。父親もほめていましたし。『こだわることの大切さ』が、なんか実感として私にもわかってきたような気がします」。

面接室でテーブルマナーの練習

なかなか決まらない、料理教室が。美子はインターネットで、本屋さんで探し回った。「外出ができない」とか「外で人と話すのが苦手」とか言っていたころがうそのように、出かけていった。

女性雑誌に料理教室を紹介した特集があり、それを見つけてきた。得意そうに「これ、私が見つけたんです。本屋さんで」と、面接室に本を持ってきて見せてくれた。写真入りで楽しそうに調理している四~五人の生徒さんたちの写真が。できあがったメイン・ディッシュもおいしそう。「テーブルマナーも教えてくれるんですよ」と、目を輝かせて話す。

「テーブルマナーの本を買ってきて、ここで練習してもいいですか?」と、思いがけない質問が美子から出された。カウンセラーは「え、ここで?」と、びっくりしたがすぐに「ああ、いいですよ。いっしょにやりましょう」と、イエスで返事をだす。次の面接では、スプーン、フォーク、お箸、箸おき、お皿などなどが並べられ、にわかレストランのようだった。「先生、お母さん、いいですか。今からテーブルマナーを始めます。まずナイフとフォークを持ってください」と、美子のかけ声がひびく。はじめっから終わりまで、テーブルマナーの講習会は、美子が主導ですべてをすすめた。

わずか三〇分だったが、この体験を経て美子に変化がみられだした。自分の意見や感じたことを、自信をもって言えるようになってきた。「テーブルマナーの練習」という自分の思いつきで、母親とカウンセラーをうまく動かすことができたという小さな「ヤッター!」体験が自信をつけたのかもしれない。

得意な物、好きな物を通して人間関係を学ぶ

「私は人間関係をよーつくらん人間や」と、言っていた美子だが、料理教室に通うようになってからは、ずいぶん変わった。先生の話もしっかりと聞けるし、グループの生徒さんたちとも問題なく話せるようになっていた。共同作業をやる、などと一年前ではとうてい不可能に思えたことが、今はできている。

「先生、娘の『より良いものをつくろう』というこだわりが、いい方向に伸びてきたように思います。こだわりを認めてあげるところから、やってみようという意欲もわいてくるようですね。美子がとてもいい性質を持って生まれてきてくれたんだと思えるようになりました」と、母親は笑顔で余裕のある声で話した。

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