薬なしで治したい。でも薬がないのは不安なの。

カウンセリングは薬がでないんでしょう。それが不安で

「どうぞ、お待たせしました」。担当セラピストの呼び掛けに、母親と娘の涼子は立ち上がった。ふらふらするのか母親が支えている。「朝から気分が悪くて。すみません」と母親がかばうように言う。目を伏せて涼子は「なんかこのごろずーとこんなんです。治るでしょうか」と、か細い声で聞いた。

(みたところ自律神経のバランスが崩れているようだな。なにかのかストレスが大きくかかっているのかもしれない。吐き気、ふらつき、めまいはこの特徴的な症状だから)セラピストは、こう思いながら面接をスタートした。

このケースは他の医療機関で薬を処方され、それを服薬してきたが良くならず来所した。本人は「薬をやめたい、しかし薬がないと不安」を訴えている。

セラピスト:心療内科を受診しておられたんですね。それなのにどうしてここへ?ここも同じような治療をするところなんですが。今かかっているクリニックはどうですか?

母親:この春からですからもう半年になるんですが、よくならないんです。薬が三種類でて、カウンセリングもしてくださることはしてくださるんですが、10分か15分くらいで。

涼子:薬、のんでも治らない。頭が重くてふらつくし、吐き気もあるし。私の病気は薬では治らないって。だって去年の秋、あの事がきっかけでこうなったんだから。なんども言ってるのに、お母さんは「クリニックへ行こう」って。

母親:だけど、涼子、あの時はそんなのんびりしたこと言える状態ではなかったよ。

セラピスト:なにか事情がおありのようですね。よかったらさしつかえのないところだけでもお話くださいませんか。今おみかけしたところ、かなり身体に症状がでています。一見内科で診てもらう症状のようですが、そうでないことも最近は多いんですよ。

涼子:クリニックでは「うつ」だっていわれて、抗うつ剤と睡眠剤と安定剤がでています。でも、効かないんです。

セラピスト:え、うつ? うつって言われましたか? どうも「うつ」のようには・・・

母親:多分去年の秋のショックな出来事のあとだから、「うつ」だと診断されたんだと思います。落ち込んでいたし、食欲もありませんでしたから。それにリストカットも一度やったんです。

セラピスト:え!リストカット? それを早くいってください。セラピーの内容が変わってくるんですよ。一度きりですか、それとも繰り返していますか? リストカットはそこのところがたいへん重要です。

涼子:一度だけです。あのー、私、ボーイフレンドにふられちゃったんです。それでもうなんか生きてるのいやになって。それなのにお父さんたら「そんなことくらいでなんだ。弱虫って」怒ったりするの。

セラピスト:うーん、それはつらいね。お父さんのカウンセリングが必要ですよ。それは言ってはいけない言葉ですよね。心が深く傷ついているときですからね。

母親:ショックなことがあると、パニックみたいになってしまうんです、この子は。それをなんとかしてやらないと、と思って。

セラピスト:そうですね。ショックをどう受け止めるか、どう消化していくか。とても難しい問題です。一時の落ち込みやパニックを切り抜けるために薬の助けを借りるのは、それなりに効果があることです。しかし心の傷が深いとか、落ち込みの原因がはっきりしている場合など、そのあとカウンセリングで心のもつれた糸をときほぐすことが必要です。そしてやはりなんといっても涼子さんに力をつけてあげることですね。つらさに向き合う力、乗りこえる力など。今はうつというよりは心身症的な症状が強いですから。さらにその必要があると思います。

涼子:私、薬では治らないと思ってました。でもどうしていいかわからなくて。それを聞いてほっとしました。できたら薬でなく自分の力で立ち直りたいんです。でもーーー。

セラピスト:疑問があったら遠慮なく言ってください。

涼子:ここは薬はでないんでしょ。私、薬なしでって言ってるけど、薬がないと不安なんです。今までずーと飲んできたし、いやだけどやめてしまうのも勇気がなくて。

セラピスト:正直によく言ってくれましたね。そういう不安をいだかれる方は多いんです。薬はまあいわば「お守り」みたいなもんで。いいですよ、薬を飲みながら治していきましょう。今まで通り内科で薬は処方してもらってください。そのかわり量を減らしていきましょう。やめるといったらパタッと全部止めるからいけないんです。一日三回を二回にしたり、二錠を一錠にしたり。徐々に減らしていって様子をみるんです。それならどうですか?

涼子:ああ、それなら大丈夫かな。

セラピスト:こちらにも精神科の医者がおりますから、必要とあれば相談して指導を受けることもできますから、安心してください。

涼子・母親:そうですか、それで安心しました。よろしくお願いします。

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