面接を中断し悪くなると急に来る、というのは治りにくい

「仕事、はじめてもいいですか?」

やっと良くなるきざしがみえだしたMさん。ある日の面接で次のような相談がありました。派遣社員として登録していたところから、仕事の連絡があったそう。「え、新しい仕事につくんですか! それはどうか。まだ早いんでは」。思いがけないMさんからの相談に担当のセラピストはびっくりして返事をした。「でもだいぶ良くなったと思うし、お金もいるから。いいですか?」と、さらに許可を求める言葉が続く。「いいですか」と言われても、いいわけないじゃないですか。まだまだ過食症状は回復していないし、体力はついていないし、ストレスの対処法だってつかめてないのに。両親の症状への理解もまだまだ十分とは言えないし。

「確かに良くなってきています。でもまだやっと5合目あたりでしょうか。これから本格的に治るためのカウンセリングに入れると思っているところなんですが」と、担当セラピストは顔をしかめた。やっと治療の基盤ができたというのに。「Mさん、いいですか。今ここで、新しい仕事を始めると、また症状が悪くなる恐れがあります。もう一月のばせませんか。そのあいだに、体力をつけ、ストレス対処法を確立しましょう」と、語りかけた。しかしMさんは、もう派遣会社に「イエス」の返事をだしてしまっていた。そして来週から出社するという。

仕事を始めるMさんへの注意点

「そうですか。仕方ないですね。それではいくつかの注意点をだしておきましょう。これだけはぜひ守ってください」。

  1. まだまだ早すぎるという認識をしっかりもって。
  2. 症状がぶり返す恐れは十分にあるということ。
  3. 仕事のグチやストレスを小口で話せる人を身近に確保すること。
  4. 職場でミスしたり注意されたりしたことを、具体的にノートにメモっておくこと。
  5. そのノートをもって、定期的にカウンセリングを受けくること。

Mさんは「わかりました。そうします」と、早口で返事をしてその日の面接を終えた。

五カ月後、緊急電話がはいって

その後Mさんからの連絡はなかった。大丈夫かな、また緊張感が出て、症状がぶり返してはいないかな。こちらから一度来所をうながす手紙をだしてみた。しかし返事はこなかった。あれだけ注意点を与えておいたのだから、気をつけながらやっているだろう。「便りのないのは、いい便り」ということわざもあるんだから。

五ヶ月ほどたったころ、ふと予約帳をみるとMさんの面接予約がはいっている。「あれ、今ごろ予約が。ひょっとしてまた悪くなったのでは」と、危惧をいだいて待っていた。やはりその予感は的中した。久しぶりに来所したMさんは、初回のころよりもずーと調子がわるい様子だった。「また過食が止まらなくなってしまって。それに夜、眠れないんです。しんどくて朝起きられなくて」。遅刻や欠勤が増えてきているようだ。「腹立つんです。主任は、いやがらせみたいに私にばっかり注意して」。「それで、ミスしたり注意をうけたことなんかを、ノートに書いておくように言ったけど、それはどうなの」。黙って下を向いて「やってません」とMさん。さらに聞いていくと、注意をしていた主任にむかって「うるさーい!」と、そばにある電話をつかんで投げつけて大騒ぎになったとか。配置替えの話しも出て、Mさんはいま職場を休んでいる。

それでやってきたのか。あれほど言っておいたのに。「定期的に来所してカウンセリングをうけながら仕事にあたらないと、症状はまたひどくなりますよ。今良くなっているとみえてても、油断してはいけません」と。「職場でミスしたり行き詰まった点をノートに書いて、ここで話し合いましょう」と。しかし注意点のどれも守られてはいなかった。

良くなりだした時が、大切なカウンセリング

数カ月もたって、とことん悪くなって駆け込んでこられても、すぐさまの対応はむつかしい。問題が大きくなったときに騒いでも、いい結果は望めないからである。それより良くなりだして落ち着いてきたときこそが、大切だ。解決の芽がどこにあるのか、どうすればその芽を伸ばしていけるのか。状況が落ち着いていれば、じっくりとカウンセリングの場で取り組むことができる。

Mさんは症状が良くなりだすと、すぐに仕事に復帰していった。前回の職場でつまづいた点を話し合ったり、対応の力をつける間もなかった。そしてその後担当セラピストのアドバイスも守ってはいなかった。急に悪くなったからと駆け込んで来られても、すぐさまの対応は難しい。結局は治るまでに倍以上の時間がかかってしまうだろう。症状から脱出するためには、その日あったできごとをできるだけ早い機会に話し合い、こつこつと地道に対応の力をつけるべく努力を積み重ねていくことが不可欠である。

2019.04.17  著者:福田俊一 増井昌美

関連記事

2017.12.27

PCよりも携帯スマホ検索

淀屋橋心理療法センターの事を知って頂くきっかけは様々ですが、どのような場合でもホームページをご覧になっている方がほとんどです。 今はサイトを見るのにPCからではなく、携帯スマホからアクセスされる方の方が多くなっています。 […]

あたたかい対応に感謝のメイル

迷いに迷って予約を決意。決め手はスタッフのあたたかい対応。 母親から問い合わせのメイルや電話が 「娘が過食で困っています。インターネットみました。パンフレット送ってください」。関東地方の母親から依頼がありました。読んだス […]

無理強いしません

淀屋橋心理療法センターには、事前相談といって治療を受けようかどうか迷っていらっしゃる方の為に、無料で一回来所することが出来ます。そこで不安に思っていることをカウンセラーに直接ご確認いただけます。そして、治療の進め方や解決 […]

シリーズ記事

2019.03.21

1.就職1年目の山場

去年は就活に追われ、やっと見つかった就職先で、1年間頑張り続けてきたけれど、要領よくやっている同僚に比べて、何故かミスをしてしまう。これではいけないと、沢山メモを取り、チェックリストも作って、(次は失敗しないぞ!)と仕事 […]

2019.03.12

2.出会いと別れの季節3月

新しい季節が始まろうとしています。出会いと別れの季節です。進学や就職、移動等々、変化の多い季節です。3月は、出会いというよりは、別れの季節でしょうか。 慣れ親しんだ生活に別れをつげて、新しい環境に飛び込むのは、期待半分不 […]

2019.03.08

3.不登校の子達が高校受験に見事合格!

今年も、不登校の中学生の子達が高校受験に合格したというお知らせが当センターに届き始めました。電話やメールで報告して下さった親御さん達、ありがとうございました。 普段はとても緊張する子が受験当日の朝に「割と良く眠れたわ」と […]

2008.11.10

4.大そうじ

淀屋橋心理療法センターの月一度の全体会議で、11月は少し早めに大そうじを行いました。所長からはおおまかな指示はあるものの、各々のスタッフが自主的に動けました。普段の全体の仕事の流れが頭に入っているので、「どう動けば効率的 […]

2008.12.26

5.新年に向けて スタッフより

もうすぐ今年が終わろうとしています。今年も早かった。毎年速度を増していきます。(←年を取った証拠なんだって。) 今年も沢山の方が相談に来られました。元気になっておられる方。まだ困難の真っ最中におられる方と様々です。みんな […]

2009.01.30

6.治療の見通し

「治療の見通しは教えてもらえますか?」 治療の途中で親御さんは、あとどのくらいかかるのだろうかと不安になる時があると思います。カウンセラーが治療の見通しを告げるのは、けがの全治何ヶ月などとは違って、本人さんの様子や家族の […]

2009.02.09

7.事前相談だけで来なくなる人

淀屋橋心理療法センターには、事前相談というシステムがあり面接を受けるかどうか迷っておられる方やどんなところなのか不安に思っておられる方の為に一度だけ無料で来所いただくことが出来ます。事前相談では、直接カウンセラーに会って […]

2009.02.17

8.離れて暮らしていても

「子供のことで相談したいのですが、一緒に住んでいないので大丈夫ですか?」 問題を抱えたお子さんが一人暮らしをされていらっしゃる場合に、親御さんが上記のような質問をよくされます。遠く離れたお子さんのことを思い、自分がそばに […]

2009.07.28

9.子育て中のお母さん、こう思いこんでいませんか?

おかあさん、こう思い込んでいませんか? 主婦同士で数人集まって話していると、例えば洗濯の仕方一つにしても5人いれば5通りのやり方があっておもしろいな、と思うことがあります。子育てにおいても、自分自身のやり方しか知らないの […]

2009.11.09

10.新しい家族になれるチャンス

アシスタントとしてお手伝いをして思うことがあります。 家族の誰かに何かが起こった時、その問題は摂食障害であったり、不登校であったり、当然表面的な事柄だけに目を奪われがちです。しかしその問題は本人だけの問題ではなく、その後 […]

コラム一覧へ