入院さきから、毎日の様子を知らせる便りが届いて

由希子(23才)は今過食症で入院している。

当センターで面接を開始して半年がたった。来所当時は、過食の買い物以外はまったく外にも出られなかった。それに着る服がないといって、どんな友だちの集まりやさそいも断っていた。以前はやせてスマートで、お気に入りの洋服がいっぱいあって、外出が楽しみだったのに。来所前は「過食症で引きこもり」という状態が四年も続いていたのだ。

カウンセリングが回数を重ねるにつれ、しだいに回復のきざしをみせてきた。やせるため母親といっしょに朝の散歩に一時間ほど歩いたり、パソコン教室にも通えだした。これも「午前中は、決して過食をしない」というセラピストとの約束を三ヶ月守れたあとから好転しだしたのだ。

それでも乗りこえがたい難関は「食生活をふつうにもどすこと」だった。自分ではきちんと三度三度の食事を家族ととりたいと思うのだが、いざその時になると、食物がのどを通らない。カロリーが気になる。みんなの目が自分の箸と口に注がれているような気がする。「食べだしたら、また止まらなくなるんじゃないか」という不安もよぎる。「何をどれだけ食べたらふつうの一人前の食事なのか」。自分のことなのに自分で判断できないといういらだちと情けなさに、由希子は悩まされていた。過食症が長引いたクライエントによくみられる暗礁が黒く横たわっていた。

「先生、私入院したいんです。以前三度も入院しましたが、治りませんでした。でも今度はまったくちがう目的で。お母さんにもなんでも話せるようになってるし、やりたいこともいくつかみつかったし。退院して帰ってきてからでも、また過食に逆戻りってことはないと思えるようになりました。それに退院したら、すぐにここへカウンセリングをうけに来ます。食事の習慣を取り戻したい。ふつうの食事ができるようになりたい。そのために入院したいんです。いいでしょうか」。由希子はこう聞いてきた。「食習慣をとりもどすことと、体重が少しふえてもいいから体力をつけること。この二つが入院の目的です」と、由希子ははっきりと言える。「成長してきましたね。きっと体力をつけて帰ってきてください。まってますよ」と、セラピストは笑顔で送り出した。

由希子から入院日記が届いている。「きょうはご飯の後、過食衝動になやまされました。がまんできず、とうとう売店でチョコレートやポテトチップを買って食べてしまいました。先生、私っていけないですよね。もうしません。まえほど過食してもスッキリしなくなりました」。「今日は担当ドクターの回診の日でした。なんか言われるかとひやひやしました」「薬がでるんですけど、のむのいやだな。でもがまんしてのみます」などなど。

自分の過食の状態を「自分でコントロールできること、できないこと」を、つかめだしている。食事も三度三度だされた物を頑張って食べているようだ。かなり良い段階まで回復している。由希子の手紙には「早く退院して先生のところへ戻りたい。次のステップのカウンセリングをうけたい。だから入院生活もがんばります」と結んであった。

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