親子関連編:甘える

「甘え」は、心の養命酒

K子さんは5年前から過食症で苦しんでいます。今25才ですから20才のときに発症したと言えます。きっかけは「ダイエット」。「やせたい、スマートになりたい」というやせ願望にとらわれて、だんだんはまっていきました。54kg(160cm)あった体重は42kgに。心配したお母さんは、あちこちの病院や心療内科へK子さんをつれていきました。「摂食障害」という病名がつけられ、いろんな薬がでたけれど、何年たってもK子さんの過食症は治りませんでした。

インターネットのヤフーで「摂食障害過食症」で検索したところ、淀屋橋心理療法センターのホーム・ページが出てきました。過食症の治療の仕方がくわしく目に浮かぶように書かれています。「『母親も治療に参加できる』『成長のつまづきと、とらえる』『日常の生活の記録が治療の基盤』と、書いてある。よし、一度ここに行ってみよう」。こんないきさつでK子さんとお母さんは来所されました。

頑張りやで思いやりの深いやさしい子。K子さんは、ほんとうによい子です。「小さい頃から、手のかからない子で、なんでも自分でしゃんしゃんできる子だったんです。それが急にやせだして。もうどうしてよいかわかりません」と、お母さん。「私、両親に不満なんてありません。これでいいんです」と、K子さん。

このしっかり砦を崩さないと、摂食障害は治らないことを知っている過食症専門セラピストは、うでを組みました。「K子さん、あなたはいままでお母さんやお父さんに甘えたことがありますか?」と聞いたところ、K子さんは次のように答えました。「いいえ、一度もありません。甘えられなかったんです。よい子でないと捨てられるという思いでいっぱいで。お父さんは恐くて、お母さんは厳しいし。甘えるなんて」。そこでセラピストは課題をだしました。「次回までに、お母さんに、三回甘えてきてください。どんな甘え方でもいいですから。わがままでもいいんです。うまく甘えられないとわがままという感じになるときもありますから」。

この「甘える」課題が、K子さんの氷のように冷たく固くかたまった心を溶かしていくきっかけになりました。過食症は、そう簡単に治る病気ではありませんが、母親に甘えられることが治療の前進に大きく役立ったことは確かです。

『甘える』(別冊PHPより)

親に甘えられるというのは、一つの能力なんです。どれだけ多くの甘えられない子どもがストレス症状で苦しんでいることか。

日ごろ「甘えちゃダメ」というしつけを受けているか、それとも親に甘えさせてあげるだけの時間的かつ体力的余裕がないかでしょう。

甘えている子どもの心は裸です。ふだんのよい子レッテルをはがし、ありのままの自分をさらけだしています。「僕(私)、ほんとうはわがままで、のろまで、勉強ぎらいなーんだ。お母さんの言うとおり頑張ってるだけなんだよ」と、全身で語りかけてきます。このとき親から笑顔で両手を広げて受け止めてもらえたら、子どもはどんなにホッとするでしょう。「あ~、しんどいときはこうすればいいんだ」と思えたとき、あらたに頑張るエネルギーが湧いてくるのです。

塾やテストや勉強、友だち関係と子どもは子どもなりに多くの緊張を感じて神経を張りつめています。たまにはひと休みさせてあげましょう。「甘える」という愛情ガソリンで子どもの心を満タンにしてあげれば、ひとりでに走りだしていきます。

でも一つだいじなことは、受け止める側のお母さんのゆとりです。お母さん自身もはりつめてばかりいないで、ときには子どもと離れてゆったりと過ごせる工夫をしましょう。

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