重症の過食は本当にカウンセリングで治る?

疑問にていねいに適切に答えることで、不信感を信頼感に

五年キャリアの過食症。病院も行ってみた。しかし治らない。「毎日過食のことしか考えられないんです。なんにもできない。なにかしようとしても食べ物のことが頭から離れず、なにも手につかない。何処へ行ってもダメだった。それが話しをするだけで、聞いてもらうだけで本当に治るんですか?」と、初めて来所した亜紀(大学4年)はこう訴えた。その目には専門家不信のにぶい光が漂っている。セラピストはそうした亜紀の疑問にていねいに適切に答えていった。

亜紀:もう一日中食べてるような気がして。朝、昼、晩と一日三回。一回に4ー5時間かかるから。

セラピスト:のべつくまなくだらだら食べる人と、きちんと決まった形で食べる人とありますが、亜紀さんはどっち?

亜紀:起きてすぐに食べ物のことがこの辺にうかんで離れへんのです。(額のあたりに円を描く)そやからずーと食べているような気がして。これがもう五年も続いてて。苦しくて何もできひん。こんな過食でも治るんですか?

セラピスト:結論は急がないで。過食は十人いれば十人とも違うので、治療法も変わります。が大きく分けて二つのパターンがあります。一つは過重のストレスがあってそれが引き金になっている人。もう一つはもともとストレスはあったんだけれど、今は習慣化してしまって、食べずにいられないという人。

亜紀:え、そんなに!だっていままで行った所では「これを治す方法はありません」とか「薬だけ」とか。ある病院なんか「脳がおかしくなったんと違うか」って、脳の検査までされたんですよ。病院の先生自身、過食のことあんまりご存じないみたいで。

セラピスト:たしかに病院の精神科や心療内科では「薬だけ」で、終わりの診察の所もあります。過食は残念なことに薬だけでは治癒できないと言ってもいいでしょう。かるい睡眠薬、精神安定剤それに抗うつ剤、この三種類の薬がよくだされるようです。

母親:病院は2~3回でやめましたね。なんか治る気せーへん言いまして。薬ものまなかったようです。

亜紀:薬で治るとはとても思えへんわ。なんかおかしいよね。ちょっと話し聞いてそいで「この薬だしときます」ゆうて。そんな問題ちがうっていうのに。そないゆうてもカウンセリングだけで治るとも思えへんけど。○○の会ゆうんごぞんじですか? 行ってみたんですけど、あきませんでした。

セラピスト:ああ、自助グループの活動ですね。何人かここへこられた方も行かれてましたね。

亜紀:へー、そうなんですか。自分の過食体験を話すんやけど、はじめは「私一人やない」って思えてよかったんです。けどだんだんおんなじことばっかりで、もたれあいって感じがしてきて。

セラピスト:なるほど、「行ってよかった」ゆう方もおられるんですけど。ちょっと変わりますが、ここで依存心の話しがでてきましたね。亜紀さんの過食をめぐる依存心はどれくらいか、さぐっていきましょう。これは過食から脱出するうえで、非常に重要なポイントなんです。過食の買い物は? 『お母さん、買ってきて』に、なっていませんか?過食の食べ物は『お母さん、あれ作って。これはダメよ』は、どうですか?『後かたづけはお母さんの仕事』になっていませんか?依存心が増えて母親を過食に巻き込んでいる場合は、治り方に大きな差がでてきます。

亜紀:うちはそこまでいってへんよね、お母さん。

母親:そうやね、買い物も自分でするし、お料理も自分でしてるね。時々頼まれて買うことはあるけど。

セラピスト:それはよかった。その状態をキープしてくださいね。それからこれも重要なポイントなんですが、食べること以外に楽しみや趣味はありませんか?

亜紀:それが過食となんか関係があるんですか?

セラピスト:おおありです。治療をお受けになればだんだんわかってきますよ。

亜紀:ふーん、そうですか。でもそんなこと言われたのここが初めてです。

母親:そうやね、こんなに細かく聞かれたのも初めてやね。

亜紀:今は何をしていても落ち着かへんし、食べること以外に考えられへん。(ハンケチを取り出し、涙をぬぐう)入院して断食しないと治らないと言われたり。脳の病気だと脅かされたり。もう私はだめやと思ってました。

セラピスト:そんなことはありません。ここはもっと重症の過食の人もカウンセリング治療で良くなっていただけてますよ。

母親:もしそうやったら、なんとしてでもこの子の過食を治してやりたいんです。

セラピスト:過食の人は「納得しない」のに、動かされるということが大嫌いです。死んでもいやなんです。そうでしょう?

亜紀:(笑ってうなずく)ぜったいいや。

セラピスト:脅かして入院させようとしても、ダメです。意志が強いですから。そういう本人の気質を理解して治療にあたっているかどうかも大切です。

母親:亜紀ちゃん、この先生にお願いしてみたら。ここまでわかっておられる先生は初めてやわ。

亜紀:(うなずいて)お母さん、私もそう思うわ。お願いします。もう一度頑張ってみます。

セラピスト:わかりました。五年というのは過食は平均年数です。もっと長い人もいっぱいおられますよ。やってみましょう。

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