Q5:「なんでこんなよけいなことするんよ、お母さんは!」と、過食症の娘(康子28才)は怒っています。私が気を利かして買っておいたケーキを見たようです。過食しているとき「もうこんなけしかないの。食べる物もうないの。これじゃ吐けないよ」と言っていたので、余分に買っておいたほうがいいかな」と、思ったのですが。私がいけないんでしょうか?
ケースの状況説明
お母さんはなかなか細やかな方で、いつも「娘にこれがいいか、あれがいいか」と考えて動かれています。それがうまくいって「お母さん、ありがとう。私これほしかったの」と感謝されることもありますが、「よけいなことせんといて。これが過食の引き金になってるってわからないの」と言われることもよくあります。この場合、康子さんの誕生日だったこともあってお母さんは、康子さんのお気に入りのモンブランを買ってテーブルの上においておきました。それが康子さんの怒りを買うことになり、はては過食の引き金になったとあってすっかりしょげておられました。
A:アドバイス
お母さんは一生懸命娘さんに気を使っておられるのですが、それが裏目にでてしまっています。以前にもこういう場面がありましたね。お母さんの思いと娘さんの願いがすれちがって。ちょっと思い出してみましょう。
母親:きのうのかぼちゃの煮物やけど、やっちゃん好きでしょ。残しておいたよ、ほら。食べる?
康子:いや、いいよ。今はいらない。これで十分よ。
母親:あーそうなん。でも足らなかったらいかんと思って、サツマイモもふかしてあるよ。
康子:お母さん、あのね、これで十分って言ってるのわからないの。
母親:そうは言っても足らないといかんと思って。
康子:もうやめてよ、よけいなことせんといてって!私がなんにも言ってないのに次々と食べ物だしてきて。足りないなんて一言も言ってないやないの。少しでも余分に食べたとたんに、「もう止まらない」となって、過食の引き金が引かれるんやから。
覚えておられますか、その時のアドバイスを。「娘さんの思いを大切に。やりすぎないようにしましょう」。これが、原則でしたね。「これで十分」と言ったら、「ああ、そうなの」と受けてそれ以上はすすめないようにします。ある時は「いらない」と言ったと思ったら、今日は「足らない」という言葉がでてきたりするかもしれません。過食モードに入ったときは、なかなか感情のコントロールが難しいのです。「矛盾したこと言ってるな」と思っても過食の波は大きく強く、本人はそれを修正できる余裕がなくなっていることをわかってあげましょう。時間がたって落ち着いているときに、いろいろ話し合えばわかりあえることがよくあります。
しかしお母さん、しょんぼりされることはありませんよ。娘さんがここまではっきりと「よけいなことせんといて」と言われていることは、大きな前進です。過食症の人は、なかなか自分のなかの「イヤなこと」が言葉で言えません。これが過食症の引き金になる大きなストレスにもなっていることがよくあります。本人の気持ちがだいぶ整理されてきて、治療の目安がはっきりしてきたと言えるでしょう。
日常のレベルで細かな表現がでてきたりすると、本人がグーンと成長しやすくなります。どうしてほしいか又してほしくないかがくっきりはっきり見えてくれば、過食が治る道筋をたどって行きます。