治療は闘いである―2「あなたも闘うんですよ」

治療者とクライエント、両者の頑張りが良い結果を

藤田亜紀さん(仮名 28才 OL)が来所した。

職場の人間関係の行き詰まりで、うつ症状、不眠を訴えての来所であった。彼女との面接のなかで、いくつかの大切な点が感じられたのでまとめてみた。

1.今のあなたでは、一人で治療継続は難しい

カウンセラー:うつと不眠ですか。これだとお一人で来所するのはしんどいでしょう。だれか協力してくれる人はご家族にいませんか?お母さんとか。

亜紀:いることはいるんですが、一人で治したいんです。

カウンセラー:お一人でねー。続くかなー。一人だと予約時間がきても、なかなかしんどくて起きられなかったりするでしょう。とくにうつの方はおつらいでしょうから。

亜紀:はい、今日もなかなか起きられなかったんです。

カウンセラー:そうでしょう。30分遅刻ですよね。前回は無断でキャンセルだったし。今のあなたでは予約を入れられても来所することも大変なご様子ですよね。これでは、面接回数重ねても、良くなるのは難しいと思います。お母さんに「助けてちょうだい」と言って、援助を求めないと。

亜紀:うちの親は、子どもに無関心で。おそらく言ってもむだだと思うんです。

カウンセラー:「お母さん、私、こんなに苦しんでるの。助けて」と言ったら、心配しない親はいないと思いますがね。

亜紀:それじゃ、親といっしょに来ないとだめということですか?

カウンセラー:すべての人がそうだと言うんではないですが、その方が治りがいいですね。あなたの症状やご様子からすると、その方がずーと成果があがると思います。でもそれぞれの事情がおありでしょうから、相談には応じています。どうしても「一人で」と、言われるのなら、それなりの工夫と心構えが必要です。それをお話しましょう。

2.一人の治療で成果をあげるには、工夫と心構えを

(以下カウンセラーの話を項目ごとにまとめてみた)

予約時間に休まず遅れず行けるかどうか

予約しても一人だと遅れたり約束をすっぽかしたりしがちですが、そうならないよう何か工夫が必要です。せっかく良くなるチャンスをつぶしてしまわないように。「ピンチのときにはどうする」という具体的な対策を考えておくとよいでしょう。親に頼んで協力してもらうのも一つですね。それでも予約時間にどうしても外出できない時もあるでしょう。その時は電話をくだされば、こちらも対応を考えます。「電話カウンセリング」に切り替えるということもできますから。大事なことは「しんどいから、起きられないから無断キャンセル」とか「遅刻してもわかってもらえる」という、受け身の気もちにならないように、ということです。「なんとかしよう」という必死の気もちがこちらに伝われば、こちらも「なんとか治してあげよう」という意気込みがわいてきます。

継続できるための工夫が必要

心の症状は腹痛や頭痛のように薬をのんで「はい、治りました」というわけにはいかないことはおわかりでしょう。成果をみるまでに、時間がかかるんです。「三ヶ月たっても成果が見えなかったら、私は続ける気もちもがなくなるやろうな。そうならないためにどないしたらええやろ」といった工夫も大事ですね。それともう一つ継続していくためには自分の「弱点やくせ」を知っておくこと。「カウンセラーに嫌なこと言われたら、私はすぐ引っ込んでしまうにちがいない。そんなとき話せる人はいるかな。お母さんに聞いてもらおうか」などですね。

3.担当者に自分をよりよくわかってもらう努力を

日々の生活記録をつけて、担当者に送ろう

面接のまえに生活の記録をファックスで送ってくれると助かります。あなたの日常が手に取るようにわかりますので。落ち込んでしんどいときもあるでしょう。そんなとき書くのは無理ですから、お母さんに頼むとか。ふだんの何気ない様子は、とてもあなたを理解する上で役立つんです。それにあなたにあった適切なアドバイスも見つけやすくなります。こんな努力も面接が良い成果をあげるために、大事なことなんですよ。

4.治療は闘い、癒しの場とちがう

闘いつつ、癒されつつ成果を勝ち取りましょう

こういうことを言うのも、心の病の治療は一筋縄ではいかないことが多いからです。「癒される、ここに来て座ってたらなんとかしてもらえる」という受け身の気もちだけでは、決して成果をあげることができません。ここは癒される所と違います。最終的には癒されるんだけど、暖かく包み込んでくれるだけの所ではありません。「どうしたら楽になれるやろう、どうしたら治る糸口がみつかるやろう」という、道さがしの闘いみたいなもんです。受け身の気もちと態勢で治療に入ると、「淀へ行ったけど、なんも変わらなかった」ということになりかねないですよ。これでは不信感が一つ増えるだけ。苦しい状態でこられても、だんだんよくなっていかれて「やったー、よかった。これからも頑張りましょう」と、お互いが思えるようにしませんと。

淀屋橋のカウンセラー対談

この面接を振り返って淀屋橋の治療者三名(カウンセラーA、B、C)が話し合いました。

B:「治療は闘い、癒しの場とちがう」。ずいぶんズバッと言われましたね。

A:いや、この人の場合は、これくらい言わないとわかってもらえない気がしたからね。

C:遅刻や無断キャンスルされると、たしかにガクッときます。治療意欲が落ちるというか。そのためにもこうしたことを初めにはっきりさせておくというのはいいですね。

B:でも頑張れない人もいますよ。うつの人とか。非行や家庭内暴力のお母さんなんか。疲れ切っておられますよね。

A:そうやね。うつの人とか子どもの問題を抱えてる親ごさんらはしんどいやろな。そんな人にまで頑張れとは言えないな。いたわりの気もちでもって接することが大切や。

C:みればわかりますね。工夫や努力ができるのにしていない人や依存心いっぱいの人とかは。

B:私は来られる方はみな「なんとかお助けせんと」という気もちで接してしまうんとこあるな。依存心が強くて「先生、どないしたらいいんですか」と、質問しまくるお母さんもいはりますわ。それで動きとれんようになって、失敗したこともあるんです。

C:そうそう、私も経験あります。「忙しくて日記書けませんでした」ゆわはって、それ容認してたらもうずーと書いてきはらへん。やっぱり日常生活の様子がわからないと、いいアドバイスはだせませんから。一回認めると、軌道修正するのがたいへんです。

B:そら頑張って疲れはててはる方にまでむち打つようなことはしたらあきません。けどね「ここに来て座ってたらええんや。遅刻しても許してもらえる」ゆう人もいはります。ようなってもらおうと思ったら、それではいかんゆうことを、しっかりわかってもらわんと。

A:受け身で自分から頑張ろうとしない人は、治りが悪いですね。カウンセラーは道案内なんや。複雑な問題の山に入り込んで、道に迷ってしまった人の道案内をする役目や。そやから山登りは本人たちが一歩一歩歩いてしてもらわんとあかん。「治った。よかったね」ゆう頂上にたどり着くには、治療者とクライエント本人、そして家族が力をあわせて一丸となって取り組むところから可能になるものやから。

2019.04.17  著者:福田俊一

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