事例 商社勤務 女性28才(仕事への迷いからうつに)

向上心の強い、まじめなK子さんが落ち込んだ穴

事例紹介:課長のなにげない発言がグサッと胸に

K子さんはもと商社のOL。入社して五年がたつ。未婚で現在は両親と三人で暮らしている。自分としてはまじめに一生懸命働いてきたつもりだ。しかし最初に配属された輸出部から動いたことは一度もない。昇進といった動きもK子さんにはお呼びがかからない。「同期入社のS君は、経理部へ異動して、主任になっているのに」「もう数字の入力作業ばかりもいやになった。もっとやりがいのある仕事をしたい」。こんなイライラ感を抱きつつも、飛び上がれずにいた。

ある日課長と話しをしていたとき「K子さんも、もう28才か。よくやるよね。そろそろやな」という何気ない発言がひっかかった。「そろそろってどういうことですか」「まあまあそうむきにならんでもええやないか。ようやってくれるから、休養も必要やで、ぐらいの意味やで」と、さりげなくかわされた。

忘れようとしたが、「そろそろ」という言葉にひっかかって仕方がない。その日以来じわっと押し寄せるしんどさに悩まされるようになった。あんなに頑張って取り組んでいた仕事にもやる気がわかなくなった。張りつめていた風船がパーンと割れたような感じがしていた。遅刻が増え、欠勤も目立ち始め、心配した母親に伴われて来所した。

苦しい感情を日記に書くこと

K子さんの場合、まずはじめに落ち込み状態になる前と、なるきっかけとなった場面と、なってからの様子をくわしく日記のように書き出してもらった。その内容に沿いながらカウンセリングで聞いていった。その結果わかったことは、確かに課長の「そろそろやな」という一言がグサッと胸にきたのだが、どうもそれだけが今回のうつへの落ち込みではなさそうだ。「そろそろ」とう言葉は「そろそろ結婚して、退職することだな」と、K子さんには解釈できた。同僚や後輩、それに学生時代の友人達が次々と結婚していくなか、自分でも「そろそろ私も結婚しなくては」といったあせりを感じていたこともはっきりした。仕事か結婚か、と言われたら迷いなく「仕事」と答えられるK子さんだが、それでもすっぱりと割り切れてはいなかったという自分に気がついた。

「このままの私ではだめ」という自己否定感が浮上

カウンセリングを重ねていく中で「このままの私ではだめだ」という自己否定の思いが強いことがわかった。まじめで向上心の強いプラスの面が行動に結びつかず、ジレンマからうつの穴に落ちていったと思われる。引き続き苦しい気持ちを紙にぶつけるよう指示をだした。

良い意味付けを重ね、プラス思考に

日記にかかれた苦しい思いをカウンセリングで振り返りながら暗い表現を拾い上げ良い意味付けにかえていく。たとえば「私は、こんな仕事しかできない」とあったら「こんな仕事ならゆうゆうとこなせる」と。「おせっかいやき」を「よく気がつく人」というふうに。

このように一つのできごとも視点をかえてみていくと、いつの間にか、見方が変わってくる。特に落ち込んでどうしようもないときに、効果を発揮するやり方である。ただしうつの人は自己否定感が強いので、その気持ちを否定するような言い方にならないよう注意を要する。

三ヶ月のち、吹っ切れて笑顔がもどる

三ヶ月たってK子さんは、こう話してくれた。「私、いまの自分でもいいと思えるようになりました。もちろん良い仕事を目指してがんばるという気持ちは変わりませんが。あせりのほうがよっぽど毒になるんですね。なにか資格をみにつけそれから転職のことは考えるようにします」と。

それから急激にしんどい波が押し寄せる回数は減り。今ではふたたび仕事に取り組んでいる。

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