事例 結婚してまもなく不眠に悩むB氏(サラリーマン)33才

物忘れひどく、不眠に悩まされ心療内科へ

「課長、ちょっとおかしいですよ」と、部下の祐美から言われた。冗談はんぶんに笑いながらだから、そんなに気にすることはないのだが。たしかに置いたはずの机の鍵がまたみつからないのだ。「おかしいな、どこに置き忘れたんだろう」と、思いながらまたさがす。「ありましたよ」と、コピー機のほうから声が。「あ、そうか。さっきコピーをとりにいったとき、横においたんだ。そのまままた忘れてしまってたんだな」。ほっとするとどうじに、「このごろは、なんでこんなに物忘れがひどくなったんだろう。夜眠れないのが原因だろうか」。先日は大事な会議の時間をまちがえてしまって、冷や汗をかいたばかりだった。

結婚して半年。まだ生活の変化についていけないなにかを感じているのだが、どうしていいか自分ではわからない。仕事に影響がでないあいだに、なんとかしないと。こんなあせりの気持ちもあった。そこでB氏は、思い切って近くの心療内科をおとずれた。そこでは5分ほど話をきいてもらって、簡単なうつのテストがあった。そしてさいごにでたのが抗うつ剤と安定剤。「しばらく服薬して様子をみましょう」ということだった。あれから3週間たつが、状態はかわらない。そこで思い切って妻もいっしょに参加できる家族療法を希望して、淀屋橋心理療法センターに来所となった。

よく気がつく頑張りやさんの夫と明るいおおざっぱな妻

B氏は早くに母親をなくしていた。一番うえの姉が母親がわりになって育ててくれた。そんな家庭環境で育ったせいか、よく気がつく気配りタイプ。そのうえなにがあってもそう簡単には弱音を吐かないガンバリ屋さん。いっぽう妻はというと、なにごともプラスにとらえる明るく大ざっぱなタイプ。夫から気分の落ち込みと物忘れを打ち明けられたときも、「そんなくよくよしなくてもいいのに。気にしすぎよ」と、夫を励ましている。

カウンセリングをすすめていくうちに、一つの状況がみえてきた。それはB氏のばあい、母親がわりに育ててくれた姉への気づかいから、自分の芽を伸ばしていくことができなかったようである。個人の症状と考えられるうつだが、それがフィットする状況がまわりにあって発病することが多い。そこへタイプのちがう妻との新生活がスタートした。なにかとストレスを感じたが、そこは「グチを言わない頑張り屋さん」のB氏のこと。「合わせて、合わせて」と、言い聞かせながらの新生活だったという。

夜のおかずでぎくしゃくしかけたが、ぐっとこらえるB氏

カウンセラーは、二人の生活の様子をこまかく聞いていった。とくにタイプがちがうと感じられるでき事について。たとえば今夜のおかずについて。「あれ、今夜は焼き肉じゃなかったのか」と夫がいうと妻は「え、焼き肉?ちがうわよ。とても新鮮な鯖がでてたから、煮付けにしたの」「うーん、そうか、今日は焼き肉だって言ってなかったか、きのうは。期待して帰ってきたんだけどな」「まあ、いいじゃない。鯖もおいしいわよ」と妻。

あっけらかんと明るく言いかえす妻に、夫は不満の言葉をのんだ。「あれだけ明日は肉の料理を頼むと言ったのに。さいきんエネルギーぎれだからと、説明したのに。ムムムー。まあ、いいか。これ以上言うとけんかになるな。僕が我慢すればまるくおさまるんだから」という具合に。

うつにもプラスの面があった?

こんなさりげない夜のおかずをめぐるやりとりにも、ぐっと我慢しているB氏の気持ち、妻に合わせているB氏の様子がみてとれる。おそらくこのような自分を抑える場面が、生活のあちこちにみられるのだろう。話を聞き終わったカウンセラーは、あえてうつのもつ「プラスの面」をさぐっていくことにした。するとB氏のうつ状態は、妻との仲がこれ以上緊迫したものにならないよう「ストッパー役」を果たしていることがわかってきた。そこでカウンセラーは次のアドバイスを与えた。「ご主人はできるだけ不満を言葉で表現するようにしましょう。反対に奥さんは、気配りタイプのご主人に意識して合わせるように」と。

うつから脱出するためには、その症状が果たしているプラスの面にきづくことも一つの方法である。さりげない日常のアドバイスではあったが、その後二人の努力の結果、B氏のうつ状態はしだいに回復していった。物忘れも気がついたらあまりしなくなっていたと、その後の面接で報告があった。

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