子ども不在の予約の取り方が、あたりまえの雰囲気

男の子(20才)がアトピー性皮膚炎に悩まされて、もう十年になる両親の面接をもった。息子は今は大学生になり下宿して一人暮らしである。先日母親のもとに手紙が届いた。それには「僕がこんなにアトピーに苦しんでいるすべての根源は、お母さんにあると思う」と、書いてあったという。

驚いたのは母親。そして話しを聞いた父親も「えー、そんなこと。あいつはいったいいまごろ何を言い出すんや」と。母親は小学生のころからアトピーに悩まされている息子のために、食材にも細心の注意を配っていた。お医者さんにもあちこちへ連れていった。アトピー関係の本も数冊買って研究をした。いくつかの要因が重なって、少しはましになったが全快とまではいかなかった。それ以後も良くなったり、またかゆくなったりで大学生となり巣立っていった。「なんとか一人でやっていってくれるだろう」と、少しは肩の荷をおろしたばかりであった。それが「母親が元凶だ」と言うのか。

相談を受けたセラピストは返事に困った。「うーん、もう十年もたってるんですか。息子さんは今別に暮らしておられるし。家族療法でどこまでお役にたてるか。まー、お話を聞かせていただきましょうか」。一時間半にわたる面接で、母親も父親もいかに息子のために心をくだき、気をつかい努力を重ねてきたかという話しがだされた。そして次回の面接予約をお取りする段になった。どうやら次回は息子も参加したいと言ってきたらしい。以下はそのときの様子である。

父親:息子が私たちのことをどう思っているか、次回の面接で言うてほしいですね。幸い参加すると言ってますので、よく聞いてやってください。

母親:今日、すべて申し上げました。胸のなかがすっきりいたしました。よろしくお願いしたいと思います。息子がこの手紙をくれたのも、私たち家族が向かい合って心から話し合うチャンスを与えてくれたと感謝しています。

セラピスト:で、いつにいたしましょうか?

母親:あいているお時間で結構でございます。

セラピスト:でも息子さんのご都合をまず聞いていただきませんと。

母親:きょうは「淀屋橋に行って話しを聞いてもらってくるから」と、言ってありますから。

セラピスト:でもですね、親が勝手に決めないでください。いちど息子さんにお聞きになってからのほうがいいでしょう。「こんな所やったけど、あんたも賛成してくれるか」と。

母親:本も見せましたし、大丈夫です。

父親:次回は息子一人でくるようにさせましょうか?

母親:そうやねお父さん。今日は私たちだけですから、次回は息子一人でええんとちがうかしら。

セラピスト:あのー、できたら親子三人ごいっしょのほうがいいんですが。ご家族のくせなどを早く読みとることができますから。お父さんが話されてるとき息子さんの表情とかしぐさなど。お母さんが話されるときはどうかとか。そんな観察が貴重なんです。

母親:なるほど、そうですか。それではおっしゃるとおりにさせていただきます。次回は息子も含め三人でまいります。あいた時間に予約をお願いいたします。

こういう流れで面接予約は来週の水曜日、二時と決まった。セラピストは(なんかおかしいぞ。この予約の取り方は。ていねいで柔らかいが、どうも息子が不在だ。一時が万事という言葉もあるが、いままで家庭でこんな調子で物事が進められてきたのかもしれない。これは貴重な解決へのデータになる)と、心のなかでつぶやいた。最後に「もう一度言いますが、息子さんのご都合を確認して、もしお悪ければすぐ変更の連絡をください」と、セラピストはつけ加えた。

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