強迫性障害の事例:「ぐず」とからかわれてから、手洗いが止められなくなった(小学5年)

【強迫性障害の事例1:「あいつらゆるせない!」と正義感の強い卓也が手洗いを 小学5年】

「ぐずの卓也」とからかわれて

「息子が何度も手を洗うのが心配で」とお母さんが相談にこられました。長男の卓也君のことです。

最近学校から帰ると「あいつら許せない」と、怒りを顕にしてこぶしでテーブルの上をたたくというのです。「卓也、どうしたの?」と聞いてみると、二人の友達が定期をやりとりしてバス賃をごまかしているとのこと。「おまえら、そんなことしてえんか」と正義感の強い卓也が注意をしたところ、二人から意外な言葉が返ってきました。「おまえみたいなぐずはこんなことできないだろう」「そうそう、ぐずの卓也にはできんよな」と。

工作を作るのも遅い。かけっこはいつもビリ。先生の説明もすぐに飲み込めずモタモタ。小さい頃から自分が他の子たちより何につけても遅いことはわかっていました。でも毎朝いっしょに登校してきた二人です。朝迎えに来てくれて遅くても待っていてくれた二人です。その二人にこう言われ、卓也は二重のショックを受けました。

「あいつらきたないことをする」と言っていたのが、いつの間にか汚い対象が増えてきました。「給食の食器が汚いから洗ってくる」とか「机や椅子が汚れていて座れない」と言い出すようになりました。学校から帰ると手を何度も洗います。だんだん時間が長くなり30分くらい洗っているそうです。「カバンや制服もきたないからふいて」とお母さんに言ってくるようになったのは、それから間もなくのことでした。

「手洗いを止めたらどうなりますか?」

話を聞いたカウンセラーが「一度手洗いを止めてみてください。そしたらどうなりますか?」と聞くと、お母さんは「何度か止めてみたんですけど、怒りだして。よけいしつこく洗うようになったので、止めないほうがいいのかと思い迷っています」と答えました。手洗いだけでなく「汚い」とこだわっている対象物が他にもいくつかあると聞いてカウンセラーは「卓也君は強迫性障害の可能性がありますね。早く治療をスタートしてご両親が対応のこつを覚えられないと、症状が悪くなる恐れがあります」と伝えました。

せっかちタイプの人が家族にいませんか?

「卓也君が強迫性障害にかかったのは、二人の不正を許せない潔癖さと、自分は悪くないのに「グズ」とからかわれたくやしさが直接の原因かもしれません。しかしそれだけで強迫性障害になるとは言えませんね」と、カウンセラーは説明しました。そして「家族のなかにせっかちな人はいませんか」と聞くと、母親は少し考えて「はい、私がどっちかというとせっかちです。弟もそうですね。いつもテキパキと動いていますので、私と馬が合うって感じで。あの子だけがゆっくりでしょうか」と答えました。

これで一つ謎がとけました。この症状にかかりやすい子は「物事をゆっくり考えて、迷いながら結論をだすようなタイプ」「納得しないと動けないタイプ」の子どもがかかりやすいということが、カウンセリングを通してわかってきました。だからおのずと時間がかかり、なにをしても「ぐず」になるのは自然のなりゆきといえましょう。家族のなかにせっかちな人がいて「はやくはやく」「まだなの」とあせらされると、自分のゆっくりじっくりペースを崩してしまうところから強迫性障害が発症しやすくなることがわかってきました。

卓也君の「じっくりゆっくりペース」を取り戻せるかが鍵

「卓也君の強迫性障害は信頼していた友人たちとのくやしい体験が発症の原因と思われがちですが、これはきっかけです。お家の中で卓也君があせりを捨てて、自分のじっくりゆっくりペースを取り戻せるかが立ち直りのポイントとなります」と、カウンセラーは話しました。

カウンセラーは両親に具体的な対応の仕方を説明しはじめました。「手を洗ったり、テーブルの上をふいたりということはまだ初期の症状です。これがひどくならないようにくい止めなくてはなりません。次にあげる点に注意してください」と、カウンセラーは次の三点を書き記しました。

  1. 症状が続く原動力は”あせり”です。この気もちが少しでも軽くなるようにしてあげましょう。「まだ洗ってるの」と言われると、よけいあせります。「いいよ、いいよ、気のすむまで洗ってていいよ」という言葉がけが卓也君の気持ちをホッとさせるでしょう。
  2. もし卓也君が「お母さん、カバンふいて」と頼んできても、できるだけ手伝わず自分でやらせることです。手伝ってやっていると、汚いと感じる対象が増えたり症状が長引いたりする恐れがあります。
  3. 卓也君はいろんなことを気にしているはずです。「あいつらあれで許されるんか。学校はどうなるのか。数学や英語は。クラスのみんなはどう思ってるだろう。いつまで手を洗ってるんだ!僕はバカだなあ」と。卓也君はおそらくそんな”気にしいの自分”がきらいでしょう。気にしていることを否定せず受け止めてあげれば、そのプロセスのなかで自分を認めていけるようになるはずです。

症状が増えてもまわりが焦らないこと

「考えられるのは症状がこれから増えていくということです。手洗いだけだったのが、ドアが汚い、お風呂のマットがきたない、畳がきたないというふうに。そのたびごとに親の心配はどんどんふくれあがります。『あそこきれいにして、ここをふいて』といった卓也君の要求に振り回されたり、逆に『いいかげにしなさい』と抑えにまわったりしてしまいます。その対応がまた症状を悪化させるきっかけにもなるのです。親があわてず焦らず『いくら悪くなっても24時間以上は洗い続けることはないんだ』と、開きなおる気持ちが必要です。わかっていてもこれがなんと難しいことか。しつこい行為に本人も家族も疲れはててしまうのがこの症状のつらさでもあるのです」。

限界を身をもって体験したら止められる

気になる不安を消すために手を洗うのですが、不安は消えません。これがすんでもまた次に気になる不安がわいてきます。どんどんエスカレートしていくわけですが、やがてどこかで限界を悟るようになります。「こんなことやっていてもきりがない」ということを本人が身を持って感じたとき、症状は下火になってきます。さんざん苦労して頭を打って「ああ、もう気になることを消し去ろうとしても無理なんだな。それじゃ気になることと共に生きていこう」というふうに、年貢をおさめる心境になれたらしだいに症状は消えていくのです。

(本文は当センターから出版した『しぐさでわかる心の病気』(エール出版、福田、増井著)から【強迫神経症 家族にせっかちな人はいませんか?】を参考に書き直したものです)

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