介護福祉士(24才男)2:「みんなに迷惑かけて、おらんほうがましや」

「職場のストレス・マネジメント」(メディカ出版)*という本を、母親が図書館でみつけた。息子の雄一が「うつ」と診断され職場を休職することになったのだ。

「母親としてどうしてやったらいいんやろ。もう大人やし、あれこれこまかくいうのもなんやし」と、母親はとほうにくれていた。近くの図書館で「職場のストレス」という索引をひいたりして出会ったのがこの本だった。

淀屋橋心理療法センターは、親だけの参加でもOK

「うつ」と診断され、ひと月の休職あつかいとなった雄一が、母親といっしょにカウンセリングを受けにやってきた。「え、ほんと。雄一君、これたの!?」と、カウンセラーはびっくり。これまでの母親の話だと、「外へ出るゆんはきついみたいです。ましてや知らん人に、自分の悩みを話すなんて。そんなエネルギーはみじんも残されてへんと思います」ということだった。「淀屋橋心理療法センターのカウンセリングは、親御さんへのアドバイスを中心にすすめられます。ご本人さんがこられなくても、効果はあげることができますよ」というカウンセラーの言葉をたよりに、母親、ときには父親も参加してカウンセリングはすすめられていた。そこへとつぜん雄一君本人がやってきたのでカウンセラーは驚いた。

「みんなに迷惑かけて、僕はおらんほうがましや」

雄一は座ったままじーと動かず、下をむいている。そばにいる母親は心配そうに、ちらちらとその様子に目をやっていた。カウンセラーは静かに入室すると、ゆっくりと雄一に語りかけた。(カウ=カウンセラー)

1:職場でのつらい体験を語る雄一君

カウンセラー:はじめまして、雄一君。よくこれましたね。どんな様子か話してくれませんか。

雄一:はい。ハーッ・・・聞いてください。もう苦しくてたまりません。ハーッ(ため息がしきりにでる)夜が眠れません。眠剤(睡眠導入剤)や安定剤をのんでるんですけどダメで。寝たと思ったら、すぐに目がさめてしまって・・・つらいんです。昼間あたまがボーとしてしまってるし、からだはだるいし。

カウンセラー:眠れないというのはおつらいでしょうね。今どんな生活ぶりですか?

雄一:なんにもやる気がわかなくて、ふとんの中でごろごろするだけです。あーこんなことしてて、遅れてしまう。みんなはどんどん仕事してるのに、ハーッ・・僕だけ取り残されてしまう。どないしたらええんや。

カウンセラー:かなり追い詰められてるようで。死にたいというお気持ちは?

雄一:ときどき襲ってきます。みんなに迷惑かけて、僕なんかおらんほうがましやって思ったら、死んでしまいたくなります。

カウンセラー:そうですか。それはいけませんね。おつらいでしょうが、お聞きしてよろしですか。もしいやならお答えいただかなくてもいいんですよ。

雄一:はー、いいです。聞いてください。治るためなら、なんでもします。

カウンセラー:はい、それじゃ聞かせてください。落ち込みのきっかけはおぼえていますか?

雄一:うーん、きっかけですか。いろいろあって。小さなことから大きなことまで・・・。一番ショックやったんは、おじいさんが亡くなったことです。僕が担当していたおじいさんが。「もう84才でご高齢やったし、まえから肺炎併発してはったんや。雄一君のせいとちがうで」と、センター長さんはゆうてくれはったんやけど。「あのとき僕が、もっとはようお医者さんとこおつれしてたら」とか「僕のお世話のしかたが悪かったんちがうやろか」とか思いだして。

カウンセラー:誰かに責められたとか?

雄一:いいえ、みんななぐさめてくれたんです。けどだんだん仕事に自信がなくなってきて。

カウンセラー:自信がなくなってきて、仕事はこびが遅くなってきたとか?

雄一:そうそう、そうなんです。「いつまでかかってんのや」とか言われて。

カウンセラー:そうですか。上司の言い方なんかは、けっこう気になりますよね。

2:同僚が昇進したのに、僕は…

雄一:それにひと月ほどまえ、またショックなことがあって。もうダブルパンチや。もうあかん、ワーと大きな声だして叫びたくなって。

カウンセラー:ああ、そうですか。どんなことが?

雄一:なんであいつが現場主任になって、僕が平のままなんや。同期やったらおんなじにあげてくれたらええやんか。僕のほうがようけ仕事してるとおもてんのに。

カウンセラー:同僚の方が昇進されたんですね。それはショックだったでしょう。

雄一:このごろはもうどうでもよくなりました。腹もたちません。そやけど考えるとゆううつで。僕はやっぱりあかん人間や。役にたたへんのや。もうなんにもしとうない。朝起きるのもめんどくさい。話しするんもうっとおしい。もう生きていたない。

カウンセラー:そうですか。ダブルパンチですね、それは。よくわかりました。おつらい気持ちをよく話してくれました。ちょっとここらで休憩をしましょう。お茶をお持ちしましょうか。雄一君はなにがお好きですか?

雄一:えっ、お茶。お茶ですか?えーっと。

カウンセラー:紅茶、ココア、コーヒー、緑茶、なんでもありますよ。

雄一:うわー、喫茶店みたいやなー。(笑う)そしたら紅茶、お願いします。

カウンセラー:わかりました。紅茶ですね。ちょっとリラックスしといてくださいね。

雄一はほんとうにつらそうだった。そばで聞いている母親もハンケチを目にあてながら聞いていた。大学をでてから希望に燃えて介護の仕事にはいっていったのだが、雄一はここで大きな山にさしかかったようだ。

「6ヶ月の休職がとれますか?」

カウンセラーはまず次のアドバイスをだした。「今の状態では、ひと月の休暇はみじかすぎます。あと半月というころになると、『職場に復帰してからどうしよう』という不安がでてきます。そうですね、6ヶ月は必要だと思います。とれますか、6ヶ月の休職が」。雄一は「6ヶ月・・・半年ですか。半年ね。とれるかな。でもわかるような気がします。こんな状態がひと月たって良くなってるとは思えません。わかりました。職場に申し入れてみます」と、答えた。「雄一君は、頑固だと自分で言っていたが、意外に素直なところがあるんだな。納得いけば素直になれる、そういうタイプかもしれないな」。カウンセラーはこれからのカウンセリングが、進め方に工夫をすればうまくいくのではという気がしていた。

介護福祉士(24才男)2:「みんなに迷惑かけて、おらんほうがましや」。

*「職場のストレス・マネジメント」(1989年、メディカ出版)福田俊一、増井昌美著

淀屋橋心理療法センターより刊行された本ですが、今は絶版になっています。

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