介護福祉士(24才男)1:母親としてどうしたらいいか教えて

「職場のストレス・マネジメント」(メディカ出版)*という本を、母親が図書館でみつけた。息子の雄一が「うつ」と診断され職場を休職することになったのだ。

「母親としてどうしてやったらいいんやろ。もう大人やし、あれこれこまかくいうのもなんやし」と、母親はとほうにくれていた。近くの図書館で「職場のストレス」という索引をひいたりして出会ったのがこの本だった。

「先生、親としてどうしたらいいか教えてください」

「介護のお仕事をされてるんですか。さいきんは需要が多いでしょうね」と、カウンセラーはやわらかく母親に語りかけた。「はい。忙しくて、夜勤もありますし。家に帰ってきてもお風呂にはいって寝るだけという日がずーと続いていました」。「そうですか。それで今休職されてるとか。ようすを聞かせていただけますか」。

うつむきかげんだった母親は、きっと顔をあげてすがるようにこう言いました。「先生、どうしたらいいかわからないんです。ふとんかぶって寝ている息子に、母親としてなにをしてやったらいいのか。教えて下さい。助けて下さい。お願いします」。

母親の表情は真剣だった。カウンセリングの治療は、すぐに効果がでるものでないこと、かなり親のねばりと熱意が必要であることを説明した。「頑張ります。息子のためです。ついていきますので、よろしくお願いします」と、母親は声を高めて約束した。

「ここは、親御さんにアドバイスをさしあげる所です」

長男の雄一(24才)は、介護福祉士としてスタートをきって三年になる。この地域ではかなり大きな老人介護施設の「ひまわりケアーセンター」に勤務していた。

母親の話によると、雄一は今年に入ってから出勤しようとすると腹痛や下痢で、近くの心療内科で診察をうけていた。「もう僕あかんわ。能力ないねんや」と、ぶつぶつ言い出して遅刻や欠勤がふえてきたのはまもなくのこと。「なにゆうてるの。これからやないの。がんばらんと」と、母親は励ましていたがようすは悪くなる一方だった。

そんな母親の話をきいていたカウンセラーは、次のように説明した。「ここは、家族療法をメインとするカウンセリングセンターです。親御さんから話をきかせていただき、わかりやすく具体的なアドバイスをさしあげています。ご本人はもう自分のことを話す気力は残されていないかもしれません。しばらくそっとしておいてあげましょう。そのあいだに、ここでお母さん、必要ならお父さんにもおいでいただいて、対応のしかたをお話しましょう。それでかなりの効果をあげることができるでしょう」。

それを聞いた母親はうれしそうに「ありがとうございます。わたしらに適切な対応のアドバイスを下さるところをさがしていました。がんばりますのでよろしくお願いします」と、答えた。

話をよく聞いてあげましょう

「息子さん、話はされますか?ぐちとか、上司の批判とかなんかでもいいんですが」という問いかけに、母親はメモをくりながら説明をはじめた。雄一の言ったことを書き留めてきたようだ。

『僕はだめだ。なにをやっても認められない』

『もう疲れた。なにもかもいやになった。職場のこと考えるだけでもいやだ』

『あいつが主任になったのに、なんで僕はなれないんや』

『出勤しようとすると、吐き気がする。お腹も痛い』

『一月やすむ。みんなに迷惑かけてしまう。よけいダメ人間になってしまう』

「聞いてるといやになってしまいます。『そんなぐちばっかりゆうてるから、よけいうつがひどなるんとちがうん。もうやめとき』ゆうんですが」。そんな母親にカウンセラーはしずかにこうアドバイスをした。「ぐちでもいいんですよ。話されるんだったら、じっくりと聞いてあげましょう。質問したり、話を止めたりしないで。だまったままでもいいから聞いてあげましょう。いいですか。次回はそれをやってみて息子さんのようすはどうだったかお聞かせ下さい」。「はい、わかりました。聞くだけならそんなに頑張らなくてもやれます。それでいいんですね」と、母親はすこしホッとした表情でカウンセリングルームをあとにした。

介護福祉士(24才男)1:母親としてどうしたらいいか教えて。

*「職場のストレス・マネジメント」(1989年、メディカ出版)福田俊一、増井昌美著

淀屋橋心理療法センターより刊行された本ですが、今は絶版になっています。

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