家族療法って、家族を悪く言うんじゃないですか

お母さんがかわいそう。一生懸命育ててくれたのに

初めて来所される人のなかには「自分だけで治したい」と希望される方が少なくない。一人で良くなる症状もなくはないが、心の病気は時間がかかるしまた再発もしやすい。家族療法だとその点、早く確実に解決にこぎつけることができる。しかし家族の話をもちだすと、急に暗い顔になって面接がすすまなくなることがよくある。そこで家族を呼ぶということのほんとうの意味をお話ししよう。

家族を呼ぶということのほんとうの意味をお話ししよう。

過食症で初めて来所した美緒(20才 大学生)は、もう二年も前から本症状で苦しんでいた。病院の精神科でも診てもらったけれど、良くならなかった。「待合い室でまってるあいだ、私、ほんとうに良くなる日がくるのかしら。もう人間としてダメかも」という、暗い気もちにとらわれてしまったという。そこで当センターに来所したわけだが、美緒はここでもまたまた「家族を呼ぶ」という説明に落ち込んでしまった。

美緒の不安(Q)に答えるセラピスト・カウンセラーの答え(A)を参考にしていただきたい。

Q:二年間も過食が続いてて。こんなこと止めようと、何度かやってみたんですけどできなくて。どうしたら止められるんでしょうか?私の意志が弱いんでしょうか?

A:これは難しいですね。過食を自分の意志の力だけで止めようとするのは。やってみてわかったでしょう。いかに難しいかが。頑張ったけどだめだった二年間が、教えてくれてますよ。家族のサポートが必要だということを。自分だけで解決しようとすると、よけいぬかるみにはまりこんでしまうことが多いんですよ、気をつけないと。

Q:わかります。何度かやってみてできなくて、これは一人ではどうにもならないなってわかりました。親の援助が要るんだなーって感じています、でも。それじゃ家族ーお母さんにきてもらわないといけないんですか?

A:そうです。やはり一番にお母さんにきてもらって協力をお願いしないと。お母さんだけではなくて、お父さんにもきてもらうこともよくあります。もちろん抱えておられる問題の中身にによりますが、家族の協力は不可欠です。

Q:家族を呼ぶってことは、家族も悪いってことになりますよね。私、過食は自分の問題だと思ってるんです。自分が悪いからこうなったと。お母さん、すごく心配してくれてるし、それだけでも私、申し訳ない気もちでいっぱいなのに。お母さんまで一緒に治療に参加しないといけないなんて。きっとお母さんショックうけると思います。お母さんがかわいそう。

A:お気持ちはわかります。しかしその解釈はまちがっています。家族療法は家族を治療の視野に入れますが、けっして「家族が悪い」とは言いません。だれも悪者にしないのも、家族療法の特徴の一つなんですよ。ただ悪い人がいるとすれば、「事態から目をそらし、努力しようとしない人」だけです。
過食というのは単に「やせたい、太りたくない」という問題ではないんです。その人の「成長のつまづき」ともいえるでしょう。少女から大人へ、どこかで育ちそびれて息をつまらせている。それは、自分だけの問題と考えがちですが、けっこう気づかないところで家族の有りようと関わりがあるんですよ。だからといって「お母さんの育て方が悪い」などとは決して言いません。それよりも「今どうしたら娘さんの過食が治るか、いっしょに考えていきましょう」

と、お話しします。

間違いのない適切なアドバイスを導き出すために、現在の生活を中心にお話しいただきます。過去の出来事を参考にしながら適切なアドバイスをさしあげていきます。これも家族療法の特徴の一つです。

ここでお母さんにきてもらったら、どんなことに協力していただくか簡単に説明しましょう。

1.さりげない日常の様子をお話しいただきます。

さりげない日常の会話、本人を中心とした家族のやりとり。その日あったできごと(エピソード)など。これを聞くと、生活に根ざしたありのままのご家族の特徴がわかります。

2.家でのカウンセラー役(聞き役)をお願いします。

苦しいこと、外であったこと、けんかしたこと、テレビの話しなど、娘さんが話される話題の聞き役になってください。娘さんの自主性を伸ばす聞き方のこつや相づちのうち方などをお教えします。

3.娘さんの過食に対して、どうしていいかわからないお母さんに具体的なアドバイスをさしあげます。

生活の記録に基づいて、具体的に言葉掛けのレベルから、どう援助をしたらいいか行動レベルまで。これが一番わからない、しんどいと言われるお母さんが多いので、たいへん喜ばれます。

4.過食に関して適切な対応をお教えします。

  • 過食の買い物は手伝ってやっていいんでしょうか?
  • 体重が減ってきてるんですけど、だいじょうぶでしょうか?
  • 娘が食べるのを止(と)めたほうがいいんでしょうか?
  • 父親をきらうんですけど、どうしたらいいんでしょうか?

ここにあげたことはほんの一例にすぎません。でもこんなことをお母さんにお願いしたり、お教えしたりします。あなたの過食が改善の方向に向かうよう、面接でアドバイスや課題をさしあげるんです。決してお母さんを悪者にするのでないことをわかっていただけましたでしょうか?

関連記事

福田所長、関西テレビに出演「摂食障害(過食症・拒食症)、ダイエットからはまる若い女性たち」

ダイエットをきっかけにして、摂食障害(拒食症・過食症)にはまっていく女性が多いという状況を、関西テレビF-CUBE「ザ・プレミア」の番組がとりあげました。ディレクターの山本さんが、当センターに取材にこられました。 『きれ […]

2014.03.27

不器用

28歳のH子さんのお母さんが相談に来られました。H子さんに3つのことを頼んでも最後に言った1つのことしか頭に残らないということです。 例えばメールで「今日何時に帰ってくるか教えて 郵便局の前を通るとき80円切手もお願いね […]

「今度荒れたらそのときにまたよろしく」と父親

危機意識がうすい親は、治るチャンスを見のがす とにかくなにか困った事が起きたら、その時に相談にくれば事は解決すると思っているらしい。高校3年生の娘が家庭内暴力で相談のご両親。 「もうテーブルの上にあるものみんなひっくり返 […]

シリーズ記事

1.重症の過食は本当にカウンセリングで治る?

疑問にていねいに適切に答えることで、不信感を信頼感に 五年キャリアの過食症。病院も行ってみた。しかし治らない。「毎日過食のことしか考えられないんです。なんにもできない。なにかしようとしても食べ物のことが頭から離れず、なに […]

2.対人緊張がともなう不登校は、薬だけでは不十分

工事中です。

3.母親の「笑い」がすべての深刻さをうやむやに

娘が過食にかかって三年。なのにかるーく考えている母親 父親が本屋さんでさがしてきた。当センターが出した「過食・拒食の家族療法」を、母親に「読め」と言う。「早くここへ行って相談してこい。もっと美沙(23才)にかかわってやら […]

4.僕、精神病になってしもたんやろか

「もうこれで精神病あつかいかな」って思ったら、足が前へ進まなくて 予約時刻を30分もすぎている。担当セラピストは時計を何度も見た。「おかしいな、無断キャンセルかな」。そう思ったとき電話が鳴った。「あのー、近くまで来てるん […]

5.薬なしで治したい。でも薬がないのは不安なの。

カウンセリングは薬がでないんでしょう。それが不安で 「どうぞ、お待たせしました」。担当セラピストの呼び掛けに、母親と娘の涼子は立ち上がった。ふらふらするのか母親が支えている。「朝から気分が悪くて。すみません」と母親がかば […]

6.家族療法って、家族を悪く言うんじゃないですか

お母さんがかわいそう。一生懸命育ててくれたのに 初めて来所される人のなかには「自分だけで治したい」と希望される方が少なくない。一人で良くなる症状もなくはないが、心の病気は時間がかかるしまた再発もしやすい。家族療法だとその […]

7.「今度荒れたらそのときにまたよろしく」と父親

危機意識がうすい親は、治るチャンスを見のがす とにかくなにか困った事が起きたら、その時に相談にくれば事は解決すると思っているらしい。高校3年生の娘が家庭内暴力で相談のご両親。 「もうテーブルの上にあるものみんなひっくり返 […]

コラム一覧へ