ひきこもり過食10年のMさんと、メールのやりとりで克服への道

きっかけはこの本でした「過食症と拒食症―危機脱出の処方箋」

過食症と拒食症 - 危機脱出の処方箋

十年に及ぶ過食症とひきこもりのMさんのお母さんは、この夏に初めて来所した。大阪とはかなり離れた広島から、新幹線をのりついでやってきた。いままで心療内科の門をたたき診察を受け、病院の精神科にも入院したことがある。しかし過食症は治らなかった。「もうダメ。私の過食は治らない。一生このままなんだ」と絶望感でいっぱいになり、今はひきこもりの生活になっているという。そんなとき母親が本屋さんでふと目にしたのが、「過食症と拒食症」―危機脱出の処方箋(星和書店)だった。「藁にもすがる思いです。なんとかして治してやりたい。それができるのなら、ここまで通ってきます」と事前相談で母親は言った。母親の目は真剣そのものだった。

「太ったみにくい姿を人に見られるのがイヤ!」と過食症10年のMさん

Mさんは過食症でありひきこもり。だから食べ物も母親に買ってきてもらう。外にでることはほとんどないという。「『太ったみにくい姿を人に見られるのがイヤ!』と言うんです。だからカウンセリングにも来られないと思います」と、母親は話した。「そうですか、困りましたね。過食症は本人から話を聞かせてもらうことが、カウンセリング治療の方針を決めていくんですが。もちろんご家族の協力は欠かせません。本人、家族、治療者の三者が一丸となって初めて過食症を克服する道を歩めるんです」と、セラピストは説明した。

なんとかMさん本人から話しが聞けないものか。そこで考え出したのがメールのやりとりである。幸いMさんの部屋にパソコンがあり、インターネットやメールはできるという。おそるおそるMさん宛にメールをうってみた。返事は返ってくるだろうか。よけいいやがって、拒絶感が増すのではないだろうか。担当の私もヒヤヒヤであった。「Mさん、はじめまして。私は過食症を専門に担当しているセラピストです。毎日過食症で苦しんでいる人たちと、お会いして話を聞かせてもらっています。—(略)だんだん元気になっていかれるのが私の一番の生きがいです。よかったらお返事ください」。

「Mさんからメールがきた!」ひきこもり過食が治る手がかりができた

明くる日返事が入っていた。「メールありがとうございました。私の気持ちを誰かに話したい、わかってもらいたいと思いながら悶々としています。先生からのメールを読んでなんとなくホッとしました。どれだけ話せるかわかりませんが、書けるだけでよかったら書きます—(略)」。このメールを読んで担当セラピストもホッとした。「これでひきこもり過食が治る手がかりができた」。そしてMさんと担当セラピストのメールのやりとりはスタートした。

カウンセリングにはじめてやってきたMさん、「過食症の克服、がんばります」

最初は雑談が中心。大阪の様子や、きのう食べたものやテレビ・ゲームの話しなど。やがてお父さんへの不満、お母さんへの愚痴などもいつしかまじるようになった。そんなやりとりが一月続いたころ、Mさんはカウンセリングに初めてお母さんとともに来所した。遠い広島から出てくるのはどんなにか大変だっただろう。近くのスーパーにもいけない状態であるのに。それでもいままでのメールのやりとりがあるので、初対面という感じがお互いにしなかった。母親がいると話しにくいこともあるだろうと、個別カウンセリングの時間ももうけた。思ったよりも、よく話してくれた。Mさんは「過食症の克服、がんばります」と言った。

それ以来一週間に一度の面接に、Mさんは必ず来るようになった。お父さんが一緒のときは少し固くなって話しにくそう。それでもやってきた。過食症の治療は少しづつ前進している。

本人が来られないとき、摂食障害(拒食症/過食症)の治療は難しい。家族の方の熱意がなくては、治療者側も引き受けることはできない。本ケースは「なんとか治してやりたい」という母親の熱い気持ちがあったからこそ、お引き受けできたのである。

関連記事

症状を長引かせる気がつきにくい家族関係(1)親子の三角関係

両親が子どもを取り込んでいるし、子どももその役割に意義を感じている こうした家族関係は、当事者はなかなか気がつきにくい。そのやり方で毎日の生活がすすんできているから。 この親子の三角関係というのは、他の症状にもよくみられ […]

2013.02.22

不登校から家庭内暴力、親への責任転嫁(発達しょうがい アスペルガー)

受験のつまずきがきっかけで不登校から家庭内暴力に至っているというご相談です。親が「○○高校へ行け」と言ったからこうなったんだ、小さい時強制的に勉強させられた等、今の行き詰まりを親のせいにして暴力をふるうということです。 […]

2014.10.28

【非行】「不良仲間との縁を切らせたい!」。その前に!

中学生・高校生の非行問題で悩んでおられる親御さんにとって、まず何よりも先に解決したいのは「不良仲間との縁を切らせること」ではないでしょうか。 「もともとは真面目な子だったのに、あの不良の子たちのせいで勉強に手がつかなくな […]

シリーズ記事

1.症状を長引かせる気がつきにくい家族関係(1)親子の三角関係

両親が子どもを取り込んでいるし、子どももその役割に意義を感じている こうした家族関係は、当事者はなかなか気がつきにくい。そのやり方で毎日の生活がすすんできているから。 この親子の三角関係というのは、他の症状にもよくみられ […]

2.必ずでてくる厳しい親批判の声

「親は何を言ってもわかってくれない。だからもう何も言わない」 家族との会話がなかった 親とのコミュニケーションがとれなくて、ずーと引きこもりの状態が続いていて。本を読んだり、自分なりに考えたことなんかをパソコンに文章化し […]

3.立ち直りかけたとき、うつの波が押し寄せて

第一志望の大学に合格しました!と、喜びもつかのま 中学一年のとき、ダイエットから過食症におちいってしまった。食べたり吐いたり、こんな繰り返しがもう七年も続いている。楽しいはずの青春を、自分はいったいなにしてるんだろう。着 […]

4.過食症が「その場しのぎの対応」で治ると思うのは、おおまちがい。

過食症はちょっとなんとかすれば治る症状ではない。なんとかして、しかも年数かけて必死でなんとかして、やっと解決にこぎつけられるかどうか。それほど治りにくい症状の一つである。過食症の治療に長年携わってきて、残念に思うことがあ […]

2013.09.09

5.ひきこもり過食10年のMさんと、メールのやりとりで克服への道

きっかけはこの本でした「過食症と拒食症―危機脱出の処方箋」 十年に及ぶ過食症とひきこもりのMさんのお母さんは、この夏に初めて来所した。大阪とはかなり離れた広島から、新幹線をのりついでやってきた。いままで心療内科の門をたた […]

2013.09.25

6.7年のひきこもり過食が1年のカウンセリング治療で、好転し外に出られた

7年にもおよぶ「ひきこもり過食」が、1年のカウンセリング治療で好転(真理子 過食症歴7年 24才) 過食症は治りにくい症状だ。7年間も「良くなってはまた食べ吐きに戻り」を繰り返していた真理子さんのお話をしよう。 過食症を […]

7.こまやかな娘と、おおざっぱな母親、タイプのちがいがストレスに

豚ヒレ肉をたのんだのにバラ肉を買ってきたお母さん ヒレとバラのちがいがわかりますか?ダイエットをしている人なら、敏感にそのちがいを言えるはずです。ヒレは赤身ばかり、バラは脂身が半分くらい混じっている。今回はこの豚肉の違い […]

8.なんでも過食のせいにして、山を乗りこえられない

「過食がなかったら、こんなこともあんなこともできるのに」 今までの治療経過 真理(高校一年の時に過食症、来所して2年が経過。不登校ぎみで進級が危ぶまれたが、ぎりぎり合格し、 三年に進級できた。過食はその後おさまりフォロー […]

9.やっと外に出られるようになると、必ずやってくるショック

「私ってすぐに引っ込んでしまうんです。『うたれ弱い』っていうか。」 真理子さんは面接の途中でこう言って下をむいてしまった。過食歴はもう7年になる。何度もよくなりかけては ダウンし、「今度こそほんものだ」と確信していただけ […]

コラム一覧へ