なんでお茶の沸かし方、入れ方に注文つけるの?

いいかげんな入れ方しないで。めずらしいお茶なのに

涼子(対人不適応)は23才のOL。会社で海外旅行に行ったひとからおみやげにお茶のパックをもらった。母親に見せながら「お茶にしたいから、これ沸かして」と頼んだ。説明は英語で書いてある。あまり読めない母親は「まあ、お紅茶みたいなもんだからいつもどおりでいいわね」という感じでスタートしだした。ところが、涼子はそういう母親の対応一つ一つが気に入らない。

涼子は対人不適応で来所して半年になる。母親の話によると、小さい頃からなにごとにも細かく納得しないと前へ進めなかった。学生時代から対人関係はしんどかったが、なんとかやりすごすことができた。ところが会社勤めをするようになってから、このこだわりが裏目にでることが多く、よけい対人関係をぎくしゃくさせている。

治療としては、もちろん職場での行き詰まりが中心ではあるが、家でできるサポートとしての役割も大きい。そこで母親の「さっぱり、こだわらない、あっけらかん」とした性格と、涼子のそれの落差を縮めていく処方を行っている。どこにでもある家庭の一こまが、どうすれば治療的対応になるのだろう。

母親:イギリスのだから、お紅茶と同じよね。この英語、なんて書いてあるのかな。ま、いいか。

涼子:どれどれ、辞書はなかったっけ。さがしてくるわ。

母親:まあ、いいじゃん。おやかんで沸かすよ。

涼子:おかあさん、だめよ。そのおやかんだったら二袋いれないとおいしくないって。ほらここに1リットルで一袋よ。

母親:あ、そう。じゃもう一袋ね。(ポイッ)

涼子:1200ccで720ccまで煮詰めるんだって。 2000ccだとどうなる。えーと。

母親:だいたいでいいんとちがう。

涼子:時間はかってる?説明によると15分煮詰めるって書いてあるよ。

母親:そう。でも10分過ぎたけど、さほど減ってるとは思わないけど。

涼子:どれどれ。最初どこまで入ってた?この線?

母親:どこかな。いっぱい入れたよ。

涼子:それじゃダメよ。ここまで入れたから、これだけ減ったってわかるでしょ。もうお母さんは。めづらしいお茶なんだから、いい加減な沸かし方しないでよ。

母親:あんたいつも細かいことばっかり言って。なんでお茶の沸かし方、入れ方にまで注文つけるの?もう自分でやってよ。そんなまでしてイギリスのお茶飲みたくないよ。

涼子:お母さんこそ、いい加減なのよ。ちゃんと説明書よんでからとりかかればいいのに。もういい。

たしかに涼子は細かく言い過ぎなのかもしれない。長年の主婦の勘で「このお茶はこれくらいでわかすといい」と、わかるであろう。しかし今ここで大事なのは23才の娘が対人不適応で、カウンセリング治療を受け続けているということである。こういう母と娘のやりとりは生活のなかで随所にみられる。どうすれば改善をうながす対応となるのであろうか。

症状の緩和を促す一つの対応としては、娘の細かさに母親があわせるというということである。娘の意見を「なるほど、そうか。そうしてみるね」と受けることがまず大切。そうすれば娘は自分の言った意見が受け入れられたというプラスの体験をもつ。その結果行動面でどういう大変さがでてくるか、自分で見て判断できるであろう。「あ、こう言うと、周りの人をしんどい思いにさせるんだな」と思ったりもできる。逆に「やっぱり私の言うとおりにしてよかった」と言うこともあるであろう。どちらにしても「自分で見て考えて判断する」という体験をすることになる。この小さな体験の積み重ねが、娘の自信をつけていき症状を緩和する原動力となるのである。

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