ストレスをさらっと流すクセがあるタイプは摂食障害(過食症)が長引くおそれがある(春香 30才 美容師 過食歴10年)

「こんにちわ!」といつも笑顔で元気な春香さん

春香さんはいつも笑顔でドアを開けて入ってきます。「先生、こんにちわ!」と元気そうな大きな声です。こんな明るい自信にあふれた春香さんが、過食嘔吐に10年も悩まされているなんて誰もわからないでしょう。

「こんにちわ、春香さん」と挨拶を返しながら、私はいつも彼女の顔色をみるようにしています。元気そうに見えても心の底では怒りがマグマのように渦巻いていることもあります。「しんどーい、だるーい」と、今にも倒れそうなくらいしんどい自分を叱咤激励している姿が隠れていることもあります。

春香さんはもう10年ものあいだ過食嘔吐を患ってきたクライアントさんです。仕事が終わると一日2500円ほどで甘いお菓子やアイスクリームなどを買い込んで、毎晩食べて吐きます。「しんどい、だるい、やる気がわかない」とカウンセリングにやってきては、疲労困悠のようすを毎回訴えています。

このように春香さんの本当の姿が現れるのは、いつも笑顔でカウンセリングが始まって30分たったころからです。

カウンセリングでは怒りをぶつけていても、家ではニコニコ

前回の面接はお母さんとのバトルで終わりました。もう20年ほど前の出来事になんですが、春香さんはお母さんを許せないことがあります。「おかあさんは病気で寝ている私をおいて、お姉ちゃんたちとお花見に行ったでしょ。私、どんなにさみしかったか」「いや、あれはね、おばあちゃんが『春香をみててあげるから、一度きれいな桜をみてらっしゃい』って言ってくれたからよ」と、何度説明してもだめです。

よほどさみしかったのでしょうか。いやそれだけではなさそうです。毎回カウンセリングのたびに、心の底に抑え込んでいた過去の腹の立つ出来事がふつふつとわき出てきます。時には父親への怒りであったり、姉たちへの不満であったりすることもあります。

カウンセリングの終わりごろには大泣きして、お母さんに怒りをぶつけだします。「春香さんは怒りや不満をこれまでなかなか出せないでいた。ストレスを流したり抑え込んでしまったりするタイプなんだな。いい形になってきた。溜まりに溜まったストレスを出していけば、過食嘔吐も少しづつ落ち着いてくるだろう」と、カウンセラーはそんな春香の姿を安堵の気持ちで見守っていました。

ところが2週間後の次のカウンセリングではまたケロッとして笑顔でやってきます。あの続きでお母さんに対して怒りを出し切ってスッキリしてきたのかと、初めのうちは思っていました。しかし聞くと過食嘔吐はあいかわらず続いているということです。「ええ、あれから帰って忘れたみたいにニコニコして。大丈夫でしたよ、先生」と、お母さんもケロッとした顔です。「なんと、あれだけの怒りを出さないでニコニコだとは。これはナゾだなー」と、カウンセラーは狐につつまれたような気持ちになったことが何度かありました。

春香さんはストレスを流してしまうタイプだとわかる

カウンセリングの回数を重ねていくうちに、春香さんは受けたストレスを流してしまうタイプだということがわかってきました。すごく腹がたってカッカッしても、その日のうちに流してしまうのです。いつもおとなしいやさしい春香さんなので、まわりの人たちの評判は上々です。しかし本質の春香さんは、怒りっぽい文句いっぱいの顔も持っているにちがいないとカウンセラーは気づき始めました。

そこで最近感じたストレス場面を春香さんとお母さんの二人で再現してもらうことにしました。

春香さんとお母さんそれに二人のお姉さん、4人で中華料理を食べにいったときのことです。

母親:機嫌良く食べてると思ってたのに帰ってくるなり泣き出して…

春香:お母さん、このお腹みて。こんなにふくれてる。なんで食べるの止めてくれなかったのよ!

母親:そんなに食べてないやないの。お母さんとおんなじくらいやで。

春香:ちがう私はガツガツ食べて食べて、詰め込むように食べてたやろ。隣のテーブルの人らがじーっと見てたわ。このお腹みて、いっぱい食べてふくらんでる。お母さんがあんなカロリーの高い中華料理屋へなんか行こうって言うからや!

母親:そんなこと言うけど、春呑もおいしそうに食べてたやないの。

春香さんはいつもぐずぐずぶつぷつ言っているかと思うと、いつも1時間ほどするとケロッとして笑顔に戻るそうです。「私が怒っているともう一人の私がでてきて『もうええやないの。あんたが我慢したら、家の雰囲気こわれんとすむんやから』とささやくんです」。

ただ一つしっかりと主張できるのはどんなテーマ?

カウンセラーは思いきってストレスと向き合う練習を春香さんにしてもらうため、同じテーマについてお母さんと言い争いを続けるよう指示をだしました。その様子をしばらく観察していたカウンセラーはつぎのようにコメントを言いながら、春香さんの言い分に耳を傾けました。

カウ:春香さんは自分のしゃべりたいようにしゃべっていませんね。どちらかというとお母さんが中心で話して、春香さんは聞き役。自分の不満もしっかりとぶつけていないでしょう。どうですか?

春香:はい、私が話してるといつのまにかお母さんが話し出して。いつものパターンです。

カウ:そうですか。ただ一つだけしっかりと大きな声で主張してるテーマがあるんですけど、わかりますか?

春香:うーん、なにかな?

カウ:「お腹がふくらんでしまった。太って体重がまた増える」とか、「この豚肉おいしそうだけど、カロリー高いでしょうね。500gふえたらどうしよう」といった体重、太る、カロリーといった「食べること」に関してだけはちがいます。別人のように押しが強く反論していますよ。

春香:そりやそうです。「食べること」に関してはぜったいにゆずれません。

ストレスを流してしまわず、出し方を練習しましょう

カウンセラーは春香さんに言いました。「食べる領域に関してはみごとに主張できていますよ。しかしこれがそれ以外のテーマについてでも同じよう出せる練習をしていく必要があります。もっとストレスに向き合う力をつけていかないと。春香さんはそれを流してしまったりするくせがあることに気がつきませんか?」「流す・・くせ?」と、まだ春香さんはピンときていないようです。

「グチや腹立つことをお母さんとの間でいっぱいしゃべってスッキリする。これからはこんなパターンになるよう、お二人で頑張って話し合いを続けてください。春香さんはこれからは自分のストレスを小出しにしながら出し方を練習していきましょう。それができだしたら春香さんの過食嘔吐の状態に変化が出てくると思います」。

それから一月ごとに春香さんのストレスの出し方が変わってきました。お母さんを相手に怒ったり叫んだりしながら、だんだんと上手に出せるようになってきました。それにつれて春香さんの食べることやカロリーヘのこだわりも少しづつ減ってきました。過食嘔吐の回数も減ってきたことは言うまでもありません。

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