お母さんとの会話がはずみだしたらOK(祥子22才 摂食障害・過食症歴2年)

じょうすな相づちとへたな受け答えのちがいが決め手

祥子(22才)が過食になってもう二年になる。勤めていた銀行も過食のために昨年やめた。毎日食べたり吐いたりに、ほとほといやになってしまった。「なんとかこの苦しさから逃れたい」とは思うが、なかなか過食はなくならない。「もうダメ。この苦しさから逃れるには、父と母から離れて一人暮らしをしなければ」と、祥子は言い出した。両親はあわてた。こんな大事なときに一人暮らしとは。そこで半年前からかかっている心療内科の先生にアドバイスをもらいにかけつけた。「いいじゃやないですか。それも自立の経験ですよ」と軽く言われ、またとまどう。

「ほんとうに一人暮らしをさせてもだいじょうぶでしょうか」。疑問に答えてくれる専門家を求めて、両親は当センターに来所した。担当セラピストは母親がつけてきた一週間分の生活記録をつぶさに読んだ。「一言で感想を言わせていただきますと『祥子さんにとって、家庭は息苦しい。自分は両親に大事にされてはいるが、抑えつけられている』でしょうね」。

セラピストがだしたアドバイスは次のようなものだった。

  1. 一人暮らしは三ヶ月辛抱して、家での生活を続けてください。
  2. お母さんの祥子さんへの言葉がけや会話を、こちらが出すアドバイスどおりにやってみてください。
  3. 専門機関を二つ同時にかけもちすると、アドバイスがまったく違うことがあり、本人、家族がとまどうことがあるので一本にしぼってください。

以下に母親と娘の会話の実例を紹介する。セラピストのアドバイスでどう変わるか。その違いを感じとっていただきたい。

会話例1

祥子:お母さん、もう暑くなってきたからお風呂いいわ。シャワーかかるから。

母親:お風呂のほうがいいんじゃない。全身ぬくめたほうがいいのよ。筋肉もほぐれるし。

祥子:そうかな・・・

セラピストのアドバイス

お母さんの受け答えを次のように変えてください。「そう、シャワーにするの」と、短く。

会話例2

祥子:この服どう?バーゲンで見つけたの。ステキでしょ。

母親:うーん、なんか色がきつくない。それにすぐしわになりそうで。そんなん買うんだったら、お母さんのあげるのに。

祥子:お母さんのって?

母親:ほらこれ。いいでしょ。あんたにぴったりよ。

セラピストのアドバイス

「え、バーゲンで?ステキね」と、まず祥子さんの言葉をオームがえしのように繰り返して。それからお母さんの意見を短くつけ加えましょう。「お母さんのこの服どう?これも似合うよ」と。

会話例3

祥子:きょう、過食がひどくてしんどいから淀屋橋での面接おやすみしたい。

母親:え、なに言ってるの。あんたが行かないとダメじゃない。あんたのための面接でしょ。過食がひどいときこそ頑張ってみてもらわないと、どうするの。いつまでたっても治らないわよ。お父さんだって、忙しい仕事をぬけて面接に参加してくださってるのよ。そんな親の都合や気もちもわからないの。

祥子:・・・

セラピストのアドバイス

追いつめてしまってますね。祥子さんは、言葉が続けられないでしょう。お母さんの言っておられることは正しいからです。正しいから反論できないでいる。これは過食の人にとって良くない状態です。次のように言っていただければ一番いいのですが。「え、しんどいの。過食増えてるものね。本当はあんたに行ってほしいんだけど、しんどいのならお父さんと二人で行ってくるわ。私たちもアドバイス受けて変わらないといけないこといっぱいあると思うから。まぎわでも行けそうだったら声かけてね」。追いつめながらも「逃げ道」は作ってあげましょう。

ここに紹介した会話例は、ほんの一例にすぎない。もっと多くの会話に対してセラピストは根気よくアドバイスを出していく。母親の受け答えや相づちが上手になってくると、子どもの会話量が増え、声も大きくなってくる。母親との会話がはずんでくることが、過食を治す第一の目標である。

祥子の過食の回数は減ってくる。

このケースはその後どうなったか。祥子は三ヶ月たっても一人暮らしはせず、母親に相談しながらバイトをさがしている。母親も娘の意見を優先させ、できるだけ肯定的にとらえようとしている。親の意見をいうべきときは言う、しかし短くきっぱりと言うよう心がけている。祥子の過食の回数が減ってきたのは言うまでもない。

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