9話:ほめてほめて―「じょうずやね」と母親がほめて、子が母を指導(瑛子23才、教師)

「やせたい、やせたい、でも食べたい」

瑛子(23才)は小学校の先生です。過食症になって一年がたちます。いつも給食ののこりを「もったいないなー」と、食べていたのが太るきっかけに。配達の箱に残るパンには、どうしても手がのびてしまいます。

食べて食べて、毎晩お風呂場で体重をはからないと気がすまなくなっていました。鏡の前に立って「やせたーい、やせたーい、でも食べたーい」と、いつも大きな声で叫びます。「なにゆうてんの、そんな矛盾したこと。聞いてられへんわ」と、母親はいつもあきれていました。

母親のアイデアでリズム運動を

「あんな、瑛ちゃん、今日テレビでやってたんやけど、ビリーのなんとかいう運動、やせるんやて、やってみいひん?」「え、ビリー? 聞いたことあるな」「ようけ若い女の人ら、やってはったわ。音楽にあわせて、からだ動かすねん」「うん、うん、あれや。テンポがええねんて。やせるんやったら、やってみようかな。お母さんもいっしょにやるんやったらやで」。思いがけず、トントンと話しは決まりました。

過食症のセラピストからアドバイスをもらって

母親は、いつもカウンセリングをうけている過食症のセラピストに相談しました。「うーん、それはいいことに気がつかれましたね。いい結果に終わるといいんですが・・・ちょっとまってください。どこに気をつければいいか」と、セラピストは考えこみました。そして3つの具体的なアドバイスを出しました。

◆アドバイス1:『ダメもと』でやること。

『これをすると、やせられる』とわかっていても、根気よく続けるというのが、過食症になるとできないことがよくあります。「ダメでもともと」と、はじめに言い聞かせて。

◆アドバイス2:3日続いたら、ほめてあげる。

「3日くらい、続きますよ」と思われるかもしれませんが、3日続いたら、オーバーぎみにでもほめてあげましょう」。

◆アドバイス3:瑛子さんがお母さんをけなしたら「しめしめ」。指導できだしたら「バンザーイ」。

「もしこのビリー運動で、瑛子さんがお母さんをけなしたら、しめたものです。それからお母さんに「こないしたらええんよ」と指導しだしたら、自分を抑えて教えてもらってください」。

母親は、「ダメもとで」「3日続いたらほめる」「瑛子が私をけなしたら『しめしめ』、教えだしたら『バンザーイ』」と、口のなかでアドバイスをくり返しながら、さっそくビデオを購入しました。

「お母さん、遅れてるよ」と、瑛子は母親のお尻をたたいて

「ワン、ツー、スリー、それっ・・」、瑛子はビデオのかけ声にあわせて体を動かし始めました。「えらいスピードやなー、ついていかれへんわ」と言いながらも、「ハイ、ハイ、ハイ」とステップを踏んでいます。母親もレオタードに身を包み、あわせてステップを踏みはじめます。「お母さん、遅れてるよ!ハイ、ハイ、ハイ」と、瑛子は母親のお尻をたたきます。「なーんや、お母さん、えらそうに言うから、もっとできるんかと思ったら、私のほうがよっぽどうまいやんか」と、うれしそうです。「なにゆうてんの、あんたとは年がちがうやないの」と、言い返そうと思って思わずぐっと言葉をのみこみました。カウンセリングでのアドバイスが頭をよぎったからです。「まず瑛子さんにお母さんをけなせたら『しめしめ』。次に指導できるようになったら、『バンザーイ』ですよ」。「ほんまやな、お母さんへたやわ。瑛子、じょうずやな。体の動かし方がえらいじょうずやわ」と、ほめてほめて。

すっかりリズム運動にはまって「1Kgやせられた」と、うれしそうな瑛子

それから一月がたちました。「ほんまにビリーのんは、きついな」と言いながらも、なんとか続けています。「お母さん、みてみて、体重が減ってる、1Kg減ってるわ。どんなに吐いて吐いて体重減らそう、思ってもできひんかったのに。うれしーい!」。

母親はさっそく次の面接でセラピストに報告しました。「先生、ほんまにありがとうございました。アドバイスいただいてなかったら、私がつぶしてしまってたとこでしたわ」と、うれしそうです。「瑛子のやる気そいだりせんとすみました。私も気の強いとこあって、すぐ言い返してしまったりしますねん。『1Kgやせられた』ゆうて、うれしそうにやってますわ」「そうですか、よかったですね。瑛子さんもこれで一つお母さんにたいして、小さな優越感がもてるようになりましたね。お母さんの『我慢して自分を下げる」が、良い結果へとつながってますよ」と、セラピストは母親をほめて励ましました。それからもとても良い形で、母と子の運動がつづいています。

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