6話:少しずつ―うす皮をはぐように、少しづつ少しづつ良くなっていく過食症

冬休みが終わりました。お正月やスキー旅行など、楽しいスケジュールがいっぱいの冬休みです。しかし過食症の人にとっては、親戚の人がやってきたり下宿をしていた兄姉が帰ってきたりと、いつもの過食パターンが崩れがちでてしんどいことの多い休みです。

過食症の美穂さんが明るい表情でカウンセリングに

美穂さんは高校2年生。過食症になって1年、初めて迎えるお正月でした。過食症専門セラピストは「さあ、きょうは美穂さんのグチをいっぱい聞かされるぞ」と、覚悟を決めてまっていました。ところが意外に明るい表情で美穂さんはお母さんといっしょにやってきました。

「お正月でなにかいいことがありましたか」と聞くと、美穂さんはちょっと首をかしげて「うーん、お母さんと数の子のうす皮むきをしたことやろか」と、お母さんの顔をみあげます。「え、数の子のうす皮むき?」とセラピストがふしぎそうに言うと、「そうなんです、先生。こんなことがあったんですよ」と、お母さんの話が始まりました。

少しづつ少しづつ良くなっていく過食症。

キッチンでお正月のおせちをつくっていた美穂さんとお母さんの会話です。

美穂:えーい、この皮とりにくいなー。

母親:数の子はね、うすーい皮をかぶってるんやで。そんでね、これ端からゆっくりはがしてみー。そしたらスーッととれるから。あせったらあかんのや。

美穂:あ、ほんまや。ゆっくりとったら、きれいにとれるね。

母親:そうそう、その調子。このうす皮がむけたらな、味がしっかりしみ込んでおいしくなるんやで。

美穂さんは、お母さんの話しを聞いて過食症のカウンセリングを思いだしました。

「食べたくて、食べたくて・・・食べ物のことしか考えられなくて、なにもできなーい!私、もうなおらなーい!」と、泣いていたときのことです。「美穂さん、過食症はいっぺんには治りませんよ。ゆっくりとうす皮を一枚一枚はぐように良くなっていくんです。あせらず小さな工夫と努力を積み重ねていきましょうね」と、過食症セラピストに言われた言葉を思い出したのです。

美穂:お母さん、私カウンセリングで先生に言われたこと、今やっとわかったわ。

母親:え、とつぜんどうしたの。なにがわかったの?

美穂:「うす皮を一枚一枚はぐように良くなる」って、こういうことやったんやなって。あせらずゆっくりはいだら、きれいにはがれるやん。過食症の治り方もこういうふうに良くなっていくんやなって思ったの。先生のアドバイスもきっと私にしみ込みやすくなるんやろなって。

話すお母さんの表情も明るくなっていました。「美穂が『そう思えたら、あせりがスーッと消えて、気持ちがとても楽になった』って言うんですよ。私もうれしかったです」と、お母さん。「はい、そうなんです。先生、私も今年はあせらず、じっくりゆっくり取り組んでいこうと思っています。よろしくお願いします」と、美穂も元気よく言いました。

年の始めのカウンセリングで、とてもうれしい言葉が聞けてさい先の良いスタートがきれました。

(2008.02.06)

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