5.母親への対応アドバイスで、改善の道へ(礼子20才 摂食障害・過食症歴3年)

過食症になって三年がたつ。礼子(20才)は、いままで母親といっしょにいろんな医療機関をおとづれ、投薬をうけてきたが、症状は改善しなかった。「過食症で苦しんでるから、管理栄養士になりたい」と、大学の食物科に入った。ところが過食症がひどくなり、だんだんと大学に通えない日が増えていく。「せっかく入ったのに、なんにもならないじゃない」と、母親の嘆きの声もだんだん大きくなっていた。

そんなおり本屋でみつけた『克服できる過食症・拒食症』の本。「ここだったら、なんとか治してもらえるかも」と、期待をいだいて淀屋橋心理療法センターのドアをたたいた。発症して三年が経過してたどりついた摂食障害専門の治療センターだった。

大学への登校をしぶるようになってから

二年まえのこと、心配していた大学のほうも無事合格して、ヤレヤレと、母親は安堵の胸をなでおろしていた。ところが、だんだん朝おきがずれてきて、「やいやいと起こす母親と、ぐずる娘」というよくある二人のセットになってきた。このままだと完全不登校も目の前である。

話をきいていたセラピストは「朝おきの様子をくわしく話してもらえませんか。舞台での再現のようにリアルにおねがいします」と、課題をだした。以下は母親の話しである。

母親:礼子、おきやー。時間やでー。

礼子:うーん、もうちょっと・・・

母親:(15分後)何時やとおもてんの。8時やで。起こしてゆうたから起こしてるのに。

礼子:えー、もう8時。あかん、遅刻や。

母親:だいじょうぶ、今すぐ起きたらまにあうよ。お母さんが駅まで車で送っていってあげるから。

礼子:からだ、うごかへん。きもち悪い–、吐きそう。

母親:あんた、このごろ毎朝、そんなことばっかり言ってるよ。

礼子:今から起きてもまにあわないよー。どないしたらえーの?

母親:しょうがないなー。どれどれ、お母さんが背中マッサージしてあげるから。

礼子:もうええ、あっち行って。お母さん、うっとおしい。

母親の話しをじっくりと聞いたセラピストは、次のような質問をなげかけた。「だいだい毎朝このような会話が交わされていますか?」「はあ、こんな感じで。もう毎日が戦争です。小学生じゃ、あるまいし。ほんとうにいやになってしまいます」と、母親は答えた。念のためまた別の場面の会話も聞いてみた。食事のときはどのような会話になっているか。やはり思ったとおり母親が「早くたべないと」「これおいしいよ。栄養もあるし」といって、かなりせかしている。ここでも「やいやいとせかす母親と、ぐずる娘」のセットが見られた。

この状態を何度か確認して、セラピストは母親に対応のアドバイスをだした。家でできる具体的なアドバイス。「わかりました。これならすぐにでもできそうです。やってみます」と、母親は、納得したように大きくうなづいて帰っていった。

三ヶ月後、登校だけでなく過食も規則的になって

面接がスターとして三ヶ月ほどたったころの様子をお話しよう。礼子は学校にはまだ起こさないと起きないが、学校にはかろうじて登校しだした。母親はセラピストからもらったアドバイスを忠実に守りつづけている。不安になったら、面接で軌道修正をしてもらい新たなアドバイスをだしてもらえるので、安心してがんばることができた。過食のほうもだらだら一日何回もしていたのが、学校にいくことで、規則的に一日2回ときまった時間にするようになっていた。

「お母さん、花屋さんでバイトみつけてきたよ」

礼子は、ある日バイトをやりたいと言いだした。「だって過食でお金かかるんだもん。お母さんにばかり負担かけてるの、もうしわけないから」と。気持ちはうれしいが、はたしてそんな余分のことをしてもだいじょうぶだろうか。そこで次の面接でセラピストに相談して、OKがでたら、ということになった。

「花屋さんでバイトですか。礼子さんもなかなか行動的ですね。いいんじゃないですか。自分からやりたいと言っておられることは、できるだけ賛成してあげて」と、セラピストはコメントした。

礼子:お母さん、私の花屋さんのバイトのこと、カウンセリングで聞いてくれた?

母親:うん、そのこと先生にお聞きしたら「賛成です」って。

礼子:うわーよかった!ほら、駅前にあるでしょ「フラワー・リーフィ」なの。

母親:ああ、あそこね。でも学校のほうは、だいじょうぶ?

礼子:お母さん、きらい。すぐ、私のすることじゃまするから。

母親:いやいや、そうじゃないよ。もちろんバイトもいいと思うよ。

礼子:え、じゃいいんやね。ありがとう。来週からなの。ほんとうはもう申し込んできてあるんよ。

母親:朝、起きられるかな、それが心配なんよ。

礼子:うん、そこやねん。やっぱり、私は朝の仕事はむりやと思う。それでね、昼からのシフトにしてもらった。1時からやから、だいじょうぶやと思うよ。

母親:そうか、1時からか。それはよかったな。

礼子は生き生きとバイトに行っているという。はじめは「朝起きもひとりでできないのに、バイトなんか。負担になって学校に行けなくなったらどうするの」と母親は、不満の気持ちが強かった。しかしセラピストからもらったアドバイスを守って6カ月たち、娘への対応のしかたもわかってきた。いまでは娘のすることを効果的に応援してやることができている。

過食がぐーんとへってきて、登校も順調に

礼子の「私は、朝の仕事はむり」。これは成長の言葉である。自分の弱いところがわかってきて、むりしすぎを自分で避けることができるようになったのだ。一度体調をくずして行けなくなったことがあった。以前だと布団のなかでめそめそぐずぐずしていたのが、今回は自分からケイタイで連絡をいれたようだ。そのあとすぐに部屋からでてきて、食事をしだした。「あー、ずいぶん変わってこれたな」と、母親はうれしかったと話した。

花屋さんであったいろんなできごとを、夕食のときにうれしそうに話してくれる。母親もしっかりと聞き役にまわっている。以前の「やいやいとせかす母親とイライラする娘」というパターンは姿を消していた。

親として一番うれしいのは、過食の回数も量もぐーんと減ってきたことだ。「だって、バイトしてたら過食にお金使うのがもったいないなーって」と、礼子は話す。あのとき「学校に行けなくなったら、どうしよう」と、バイトに反対の気持ちが強かったが、「セラピストのアドバイスをまもって、応援してやってよかった」と、母親はしみじみと語った。

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