5.卒業と同時にデザイン事務所に就職できた美樹。得意な絵を評価してもらえる職場だからやめたくない。(美樹 21才 過食症歴4年)

美樹は過食嘔吐に苦しんだ大学生活にめげず、卒業と同時に就職を果たしました。しかし完全に治ったわけではありません。なにかストレスがかかるとどうしても過食嘔吐のほうへ逃げてしまいます。

過食した後の嘔吐で体力も気力もダウン

「なんにもしたくない。ねても起きてもしんどい。私はもうダメだ」。美樹さんは重い体を起こそうとしてはドサッと横たえてしまいました。昨夜遅くに過食をしたあといつものようにトイレで嘔吐をしたのですが、吐ききるのに時間がかかってしまいました。思ったとおり朝がしんどくて体が重くてたまりません。時間をみると7時です。そこへお母さんが顔をのぞかせました。「もう時間きているよ。どうする、今日は?」「しんどくて、朝3~4時ごろに目がさめてしまって眠れなかったの」「じゃ休む?連絡必要なら入れるよ」とお母さん。美樹さんは「いや、行く。仕事休むわけにはいかない。少しづつ気持ちをあげていくと昼頃からだんだんハイになってきて、よく動けるようになるから」と言い、がんばって起きあがり出勤して行きました。

夜遅くに過食嘔吐をすると翌朝気分がダウンし体がしんどくて起きられないということはよくあります。遅刻や欠勤などにつながりやすくなります。こんなとき起きあがって出勤するというのは、なかなかできることではありません。美樹さんは何というガンバリ!過食症からの完全脱皮も近いと感じさせられます。

苦手な部署から変えてほしいと上司に直談判

美樹さんは今の事務所で営業に配属されていました。「ちょっと明るい感じで、話し上手に見えるからだわ」と美樹さんはしょんぽり。第一印象とちがってほんとうは人と話すのがとても苦手だったのです。長い間過食症を患っていたからか、劣等感から解放されず引っ込みじあんでした。

一月ほどたったころ美樹さんは思い切って上司に相談しました。「課長さん、私人と話すの苦手なんです。顔がこわばってしまって。書類に書こうとしたら手がふるえて書けないんです。部署を変えていただけないでしょうか?」と直談判。「だいじな顧客さまに失礼があってはいけないので」という理由づけまでしてまわりの人たちをぴっくりさせたそうです。「美樹さんって思い切ったことのできる人やね」と、いっぺんに事務所内で評判になっていました。

一見引っ込み思案に見えるかもしれませんが、過食症になる人は意外にも内面に秘めた決断力の良さをもっているものです。カウンセラーはこの話しを聞いて「美樹さんも過食症から抜け出るにつれて、内面に隠れていた本質の良さが顔を出してきているな」と思いました。

「今の仕事、ぜったいやめたくない。頑張る」と美樹は

「私の好きな仕事を評価してもらえてるから、やめたくないんです。今の仕事」。美樹さんは上司に直談判して配属を変えてもらって編集部にやってきました。ここではいろんな企業や研究所から注文を受けて、パンフレットや小冊子、新聞などを作成していました。絵を描くのが得意な美樹さんはとても重宝されています。今の部署で仕事ができるのも夢のようだとなんども話していました。

「美樹さん、こんど子ども向けのパンフレット作るんだけど、一つ挿し絵描いてくれるかな?」「あ、はい。子ども向けのですね。やらせていただきます」「ちょっと先方さんの都合で急ぐって言ってるだけど、いい?」「はい、三日あればできます」といって引き受けた今の仕事です。過食嘔吐がしんどいからといって、負けてなんかいられません。

調子の良いとき悪いとき、過食症によくある波

過食症には波があります。調子のいいときは「もう完全に過食症から脱皮できたわ」と感じるくらいすっきりとした気持ちです。しかしそんな良いときばかりではありません。ちょっとした仕事のストレスに負けて食べてしまった後のくやしさ。「あー、私はまだこんなことやってる。だめだ、私ってだめ人間だ」と、嘔吐しながら自分を責めまくって落ち込みます。そんなときは「仕事なんかどうなってもかまうもんか」といった投げやりな自分になってしまうことが多く、こんな自分との闘いも過食症の人の苦しい一面です。

「リクナビ」「マイナビ」に登録して、厳しい選択をのりこえやっと就職できた今の企業です。美樹さんは心の底では「摂食障害の苦しさはだれもわかってくれない」と、いまでも思っています。だからこそ仕事のしんどさつらさには負けたくない。歯をくいしばって頑張るんだと決心しています。カウンセリングにやって来たときも「私、過食症から立ち直るまで、この仕事をやめないわ!」と、自分に言い聞かせるように力強く言っていました。

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