4.「雨ふって地固まる」みたいに良くなってきた過食症(美佐 22才 OL)

摂食障害:美佐 22才 本屋勤務 過食歴6年

必死で両親の仲をとりもつ美佐

「なんだ、この部屋は。いつもきれいにしてくれって言ってるだろう」と、居間に入ってくるなり父親が大きな声をあげました。「はい、はい。わかってますよ。あなたも気がついたらきれいにして下さってもいいでしょう」と母親の声。二人の声が聞こえてくると、美佐はいつもヒヤヒヤして耳をそばだてるのが幼いころからの習慣です。「なんだ、その言い方は。きれいにしてくれって言ってるんだ!」「そんなに怒鳴らなくったていいでしょう」。こんな小競り合いがつづく毎日、美佐はいつもたまらず二人のあいだに飛び出していきました。

「やめてよ、そんなことくらいでけんかするの。お父さんだってお母さんが仕事から帰って、夕飯の支度で忙しいってことわかってるでしょ。」と、父親のほうをむいて諭すような口調で言います。「お母さんもいちいち言い返さなくてもいいじゃない」と母親をなだめます。いつも美佐が父親と母親の仲をとりもつことで二人のけんかがおさまってきました。

美佐が過食症を発症したのは、16才のとき、高校一年生でした。毎日両親の小競り合いがおさまると、自室にこもって買い置きしてあった食べ物を詰め込むように食べて吐いて。そして6年がたちました。

カウンセリングがスタートして半年後、過食は半分に減った

半年のあいだには、山あり谷ありとたいへんな場面が多くありました。「なんですか。それでは私がわるいとおっしゃるんですか」と、お父さんのほうからセラピストにクレイムっぽい言い分がだされたこともありました。「私だって自分のやりたいことや言いたいことあります。それをなぜ主人はわかってくれないのか。もう後ろにはひけません」と、強行発言が母親からだされたことがありました。

二人のあいだは相変わらず小競り合いが続いています。しかしカウンセリングにおけるアドバイスでかなり中身が変わってきました。「二人のケンカは二人でおさめる。けんかはしてもいいけど、仲直りじょうずになりましょう」。

両親の仲直りができだすと、いつのまにか美佐は二人のあいだに入って仲をとりもつということをしなくてよくなりました。「あー、またはじまった。ま、いいか。ふたりでおさめてくれるようになってるもん」。気持ちの楽さかげんが、過食に走る衝動につながらなくなったと、美佐は話していました。

母親と美佐が味噌汁のことで大げんかを

美佐の過食は毎日だったのが二日に一回と減ったのですが、まだまだ過食は続いていました。「いつまでこんなことしてるつもり。もういいかげんにしてよ」と、母親の声もヒステリックになりがちでした。阪急梅田にある本屋さんで働いている美佐は、過食症をかかえながらも欠勤や遅刻もほとんどなく頑張ってやってきたというのに。過食のこともカウンセリングでアドバイスをもらい出してから、ずいぶん理解し変わってくれるようになってきたと思っていたのに。それが先日ささいなことで母親と大げんかをしてしまったのです。

美佐がお風呂からあがってみると、食卓の上にお椀にはいったお味噌汁がおいてありました。いつもカウンセリングでは「食べ物を美佐さんの目につくところにおかないよう」とアドバイスがあります。「それなのに、なんで味噌汁なんかおいとくのよ!」と、美佐はカッとなって怒鳴っていました。「お母さん、食べ物をテーブルにおいとかないで。あれほど言ってるのに。また食べたくなってしまうじゃない!」「そんなこと言ったって、冷蔵庫に入らなかったのよ。自分でなんとかしてよ」と母親も言い返します。カッーとなった美佐は、お椀ごと母親にむかって投げつけました。お味噌汁をぶっかけられた母親も逆上。つかみ合いのけんかになって、おろおろした父親にとめられその場はなんとかおさまりました。

「雨ふって地固まる」みたいに良くなってきた美佐の過食症

カウンセリング室で美佐と母親は座っていました。「そうですか。それはすごいバトルだったんですね。しかしこれは革命です。過食症の人がここまで自分の腹の立つことを主張されるとは。美佐さん、よくやりましたね。けんかもいいですが、仲直りはできましたか?」というセラピストの問いかけに二人は顔を見合わせました。「ごめんね、お母さん」「ううーん、いいよ、美佐。お母さんが悪かった。うっかりしてたよね」と、二人の仲直りができました。

それから美佐はちょっとイヤなことでも黙っていないで、文句をよく言うようになりました。母親も「そうか、そうか、そんなことが美佐はいやなのね」と、受けとめてくれます。そして同時に「お母さん、私ね、今夜食べ吐きやめようと思って、過食の買い物しないで帰ってきたの」とか「日曜は4時まで食べないでがんばるね」といった過食にたいして前向きの言葉が出てくるようになりました。

美佐の過食症の治療がスタートして一年半、今ではときどき二週間に一度くらいの過食で過ごせるようになっています。お父さんとお母さんのけんかも仲直りがじょうずになってきたし、美佐もしっかり言いたいことが言えるようになり、家族間の風通しがずいぶんよくなってきました。今完治にむけて治療はすすめられています。

症状を克服、良くなった姿

関連記事

よその子にくらべて遅れていると思うと不安で眠れない

育児書どおりが正しい発達レベルと信じこんで 面接室には三十代の若い夫婦が座っています。4才と2才の二人の子育てに、母親がまいっているということです。セラピストが入室すると母親は立ち上がり「お願いします」とすがるような表情 […]

2012.11.12

【不登校・家庭内暴力】暴力さえ治まれば安心?

家庭内暴力のひどかった中学三年生のA君が、高校の合格が決まった日からピタッと暴力が治まりました・・・。どんなきっかけであっても、家庭内暴力さえ治まってくれれば良いと考えてらっしゃる親御さんは少なくないと思います。 しかし […]

2013.10.18

親の対応(接し方)のアドバイス 気難しい子の対応は?(発達しょうがい アスペルガー)

発達しょうがい(アスペルガー)と言われているJ君はとても気難しい子です。少しでも気に入らないと不機嫌になり家族に当り散らすのです。お母さんは出来るだけ家族が平穏に過ごせるようにJ君が小さい時から常に彼の機嫌を伺い、気を遣 […]

シリーズ記事

2015.02.28

1.摂食障害を克服して

摂食障害を乗り越え夢だった美容師として活躍されている人の話です。 『美容学校時代に知り合った旦那さんと一生懸命開店資金を貯めて小さいけれど駅前にお店を持ちました。居心地もよく腕もいいと評判で確実にお客さんも増えてきました […]

2008.05.29

2.「貧乏くじばっかりひかされてきたんや、わたしは」と、泣いて叫んで(多美 高3)

過食症がもとで、不登校からひきこもりに 多美は高校3年生。過食症になって3年目になります。この春3年生に進級したとき、一週間登校しただけで、とうとう学校に行けなくなってしまいました。「いったいなに考えてるんや。学校にいか […]

2008.07.01

3.「できあいのお総菜」で楽をして、過食から1年でリカバリー(真美 18)

真美は東京から淀屋橋心理療法センターへ、過食症のセラピー(カウンセリング)を受けに通っていた。実家が大阪なので母親といっしょに来所し、1年後にはほぼ過食症を克服できたケースである。1年というとかなり早い期間での立ち直りだ […]

2013.10.03

4.1.摂食障害(過食嘔吐)が長引いて、不登校からひきこもりに(過食症歴3年 高3)

摂食障害(過食嘔吐)がもとで、不登校からひきこもりになった多美さん 多美さんは高校3年生。高1のときに過食嘔吐を発症して3年目になります。もともと不登校ぎみだったのですが、この春3年生に進級したとき、一週間登校しただけで […]

2013.10.08

5.2.過食症を克服し就職できた!摂食障害専門外来の力は大きい(過食症歴6年 29才)

過食症を発症して6年がたつ。淀屋橋心理療法センターにある摂食障害専門外来でカウンセリング治療をスタートして、 2年後には過食症も嘔吐も止まり就職することができた。症状が重かったわりには、比較的早く過食症克服への道を歩めた […]

6.「過食症だった私が、会計事務所で働けてる。うれしいな」(瑠美29)

重症の過食症。発症後6年たって来所したケースだが、治療をスタートして2年後には過食も止まり働くことができだした。症状が重かったわりには、比較的早く克服への道を歩めたケースである。 過食症になって6年目に来所 過食症になっ […]

7.3.「摂食障害・過食症が、ほんとうに良くなりました」と母親がうれし涙

夏美(18才 高三、過食症になって三年たってから淀屋橋心理療法センターへ来所) 「夏美さんの過食症は、一年後にびっくりするくらい良くなりますよ」 カウンセリング治療がスタートして一月たったころのことです。「えー、そんな。 […]

8.4.「雨ふって地固まる」みたいに良くなってきた過食症(美佐 22才 OL)

摂食障害:美佐 22才 本屋勤務 過食歴6年 必死で両親の仲をとりもつ美佐 「なんだ、この部屋は。いつもきれいにしてくれって言ってるだろう」と、居間に入ってくるなり父親が大きな声をあげました。「はい、はい。わかってますよ […]

9.5.母親への対応アドバイスで、改善の道へ(礼子20才 摂食障害・過食症歴3年)

過食症になって三年がたつ。礼子(20才)は、いままで母親といっしょにいろんな医療機関をおとづれ、投薬をうけてきたが、症状は改善しなかった。「過食症で苦しんでるから、管理栄養士になりたい」と、大学の食物科に入った。ところが […]

10.6.小さな良い変化がでてきたら、治るきっかけがつかめるかも・・(美香28才 摂食障害・過食症歴3年)

過食症にかかって三年がたつ。美香(28才)は、小さいころからとても良い子だった。友達も多かったし、勉強もよくできる頑張りやさん。「私の自慢の娘だったんです」と、母親は話した。思春期のころ、よくあるダイエットの失敗から拒食 […]

コラム一覧へ