22才の息子さんが「精神病の疑い有り」と診断され、当惑していたお母さん

初診時にもってこられた心理テストの報告書。どの項目にも心配な言葉が並べられ、その中でもひときわ目をひいたのが「精神病の疑いあり」という文字だった。お母さんもその部分を指さしながら、つらそうな表情で息子さんのひきこもり状態を説明して下さった。息子さんは大学生だが、登校はおろか外出もほとんどない。夕食だけは出てきて一人で食べるものの、家族の誰ともほとんど会話をしない。そんな状態が数カ月続いているという。しばらくそっとしておくべきか、それともきつく言うべきか・・、怠けているだけのようにも見えるが検査の結果は・・・。打つ手がなくお母さん自身も悶々とした毎日をすごしていた。

カウンセリング開始から二ヶ月。変化は意外と早くあらわれた。息子さんがご飯のおかずに文句をつけはじめたのだ。いつもなら即座に言い返すお母さん。しかし、カウンセラーからは「どんな話題でもいいから口数を伸ばしてください」というアドバイスを受けていた。お母さんは言い返したい気持ちをこらえ、アドバイスに素直に応じて下さった。これが結果的に一年後の成果をもたらしてくれた。息子さんの口数は次第に増えていった。毎日のおかずの文句にはじまり、テレビをみての批判、チラシをみながら「これは高い」「これは安いけどすぐこわれる」など、批判精神や自分なり理屈などがどんどん伸びていった。決して前向きな言葉ではない。でもカウンセラーは「いいぞ、いいぞ」と口数の伸びを徹底的に評価していった。やがて、「今日、雨ふるかなー」「風呂わいてる?」などの雑談もかわせるようになってきた。「お金ちょうだい」と言っては、近くの店に週刊誌を買いに行ったり、レンタルビデオを借りてくるようにもなった。

大きな変化は翌年の春に訪れた。とつぜん「定期買うからお金ちょうだい」と言い出したのだ。あとで親あてに届いた郵便物から、大学に何度か足を運び履修届もだしていたことがわかった。それから三ヶ月。大学へは行ったり行かなかったりの毎日が続いている。その代わり、数少ない友だちと電話でしゃべったり、車で出かけることもできるようになった。お母さんが何気なくさそった回転寿司に「行く」と返事した時には、誘ったお母さん自身が驚いた。次から次にお皿をとり、インターホンで自分で注文している様子をみると、昔のわが子に戻った気がして感慨もいっそうだったという。それからもお母さんは焦らなかった。雑談と批判精神がどんどん伸びてくれば、いずれ不安な胸の内も明かすようになるというカウンセラーの言葉を信じているからだ。カウンセリングの終了もお母さんからの提案だった。お母さんの顔つきは晴れやかだった。おまけに「私自身、人をあまり信用してませんでした。でもここに通ってみて、人を信用することを知りました。私も息子に信用してもらえるよう、これからも頑張ります」と、有り難い言葉を頂戴した。

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