1.完ぺき性:なんでも完ぺきにやらないと気がすまない。仕事ぶりは評価されるが、しんどくてたまらない(奈美 28才 過食症歴5年)

過食症になってもう5年になる奈美さんは、一年前からパートタイマーとして経理事務所で働きにでています。どんな仕事もきっちりとこなすので、「すばらしい仕事ぶりだ」と評価され上司や同僚の評判もなかなかです。ところがその評価とは裏腹に、本人はへとへとに疲れてしまっていました。

過食症の人によくみられる特徴として「完ぺき性」がありますが、奈美さんもそれに苦しめられていたのです。何ごともきっちりと完ぺきにこなさないと気が済まず、状況にあわせて動くということができません。

「奈美さん、正規の社員として入ってもらえませんか?」

過食症はまだ完全に治っていませんが、奈美さんは勇気をだしてパート仕事にでることにしました。「うまく勤められるかな」とハラハラしながら、ようやく一年がたちました。

奈美さんのまじめで何事にも一生懸命に取り組む姿勢が評価され、事務所の所長さんから「正規の社員として入ってはどうですか?」という話しもでてきました。ところがそのころ奈美さんは「本当はしんどくて、やめたい」とさえ思っていたのです。はりきって仕事に取り組んでいると周りの人たちには見えているのに、奈美さんの心のなかには何が起きていたのでしょうか?

「私はなんでも完ぺきにやらないと気がすまなくて」

奈美さんが事務所に入ってすぐに気がついたのが、お湯のみの洗い方がいい加減だったことでした。茶渋がついていても、他のスタッフは平気で上司やお客様にも出しています。奈美さんは「これはいけない。私がピカピカにしよう」と、さっそくキュッキュッと磨いて。きれいになったお湯のみを見てスタッフのみんなも「奈美さん、きれいにしてくれてありがとう」と大喜びでした。

初めのうちは奈美さんも「みんなに喜んでもらえてよかった」とうれしかったのです。が、だんだんと何かにつけ「完ぺきにやらないと気がすまない」性格が顔を出してきて、奈美さんのこうした気づきが増えてきました。ある日家に帰ってからお母さんにこんな話しをしました。

奈美:お母さん、今日しんどかったのはね、ドアが開いてお客様こられたのに、誰も立って応対にいかないんよ。私は他の仕事してたんだけど、気になってね。みんなドアの音とか足音とか聞こえてると思うんやけど。気にならないんかな。これでこんなこと5回目やで。情けなくなってきた。なんで奥にいる私が走って行って応対せんといかんのよ。(奈美は不満げに話します)

母親:あんたもわかってるやろ。応対の仕事はその役目の人に任せといたらええんとちがう。すべての仕事、奈美がせないかんってことないんやで。誰の仕事か、誰に頼めばいいか。まずはじめにそれを考えたらどうや?

奈美:そしたら気がついてさっと対応する私がいけないって、お母さんは言うの?(怒ったような奈美の声)

奈美さんはお母さんの言葉を聞いてしんどさが倍になってしまいました。

奈美さんの心の中の葛藤に目をむけてみよう

この話しを奈美さんとお母さんから聞いたカウンセラーは、「仕事一年目にしていよいよ問題点がでてきたな。ここは第一の関所だ。奈美さんの今までの頑張りや気づきを否定しないニュアンスで、聞いていくことが大切だ。それには奈美さんが心の中でしんどいと思っていることを、細かく具体的に見ていくことにしよう」と、カウンセラーは判断しました。

奈美さんがこれまで職場で誰より早く気づいたことやしんどいと感じたことを、ラベルに書き出してもらいました。そこには次のようなことが書いてありました。

【窓を開けて空気を入れかえなきゃ】
【あ、あの大事な本が出しっぱなしになってる】
【速達の郵便物がテーブルの上に置いたままになってていいのかしら】
【所長さんが外から帰られた。お茶を出したほうがいいと思うんだけど誰も動かないな】
【ファックスが入ってきた。だれも見に行かない。気になってしかたないんだけど】

他にいくつか書いてありました。それもみんな仕事上ではサッと動いてこなすほうがいいことばかりです。奈美さんは人より早くこうした細かい点に気がつきます。気がついた以上ほっとけなくなり、すぐに対応しようと動きます。あれもこれもと重なってくると、もう頭の中が混乱しそうで「ワーッと叫びたくなる」ときもあるようでした。「なんでみんな気がつかないの。ぜーんぶ私がせないかんなんて、もうしんどいわ」という思いが奈美さんの心のなかに渦巻いているようでした。

カウンセラーは「いろんなことに気がつくということは、仕事上とても大事な点ですね。それを「すぐに対応して、しかも完ぺきにやらないといけない」という意識が強いということは奈美さんのとても素晴らしい点です。でも奈美さんのようにしんどくなったり続かなくなったりしないよう取り組むにはどうしたらいいか、そこをみていきましょう」と説明しました。

過食症であるがゆえに、思わぬことが何倍もしんどくて

昨日はとくにしんどかったと言いました。それはお客様からいただいたアップルパイ。みんなで分けて食べたけれどまだ残っている。それが仕事机の上に置きっぱなしになっていたそうです。奈美はその時の心境を次のように話しました。

「私は『あやふやな状態』が辛抱できないんです。アップルパイが机の上に置きっぱなしにしてあるけど、気になって仕方がない。捨ててしまったらいいけど、それもできない。スタッフの誰かが楽しみにしているだろうから。こんな白黒つけられない状態になると『いつまでこれが続くのか』『いつか我慢できず私が食べてしまうんじゃないか。食べてしまったら太る―という恐怖感に襲われてしまう』。『今すぐ白黒つけてくれ!』と叫んで走り回りたくなってしまうんです」。

苦しそうに目に涙を浮かべて話す奈美のようすには、ほんとうに過食症であるがゆえの苦しみがにじみでていました。

納得いくまで自分の「完ぺき性」にむきあって

お母さんの「なにもかも奈美が自分でしようとするからや。誰の役割かまず考えたらわかるやろ」という言葉。「奈美さん、仕事の優先順位考えてな。自分の仕事をまず先にやるんやで」という上司のアドバイス。「奈美はまじめすぎる。だいたいできたらそれでええのよ。不備があったら先輩がゆうてくれはるわ。完ぺきにやってたら身がもたないよ」という同僚の言葉。

「たしかにみなさんのアドバイスはまちがっていません。でも大事なことは奈美さんがそのアドバイスを実行できるかということです」と、カウンセラーは言いました。

「奈美さんがいろんなことに気がついてサッと対応することも、しんどいからと言ってやめられないでしょう。『気がついたらすぐに、しかもきっちりとやらないと気がすまない』という完ぺき症も、取り除かれないんです。奈美さんはきちっとして初めて安心できるタイプですから。いいじゃないですか。そんな自分をほめてあげましょう。完ぺき性さんにはそこにおらしてあげましょう。そしてあなたの完ぺき性にとことん向き合っていきましょう」というカウンセラーの話に、どこか奈美は納得のいくものを感じていました。

カウンセラーはさらにアドバイスを続けました。「とことん自分が気がついたことや気になることに向き合って、納得のいくようにやっていきましょう。納得のいくまでこだわり抜くということも時にはやってみるといいですよ。完ぺきをめざして取り組むなかから、自分のもつ素晴らしい能力や限界に、自分で気がついていくでしょう。それから『どうしたらいいのか』を考えても遅くはないでしょう」。

職場で気になることがあっても、とらえ方が変わってきた奈美

奈美さんはカウンセラーからもらったアドバイスを心のなかで温めていました。「とは言ってもなー」と思いながら「職場で自分にとことん向き合う」ことの難しさも感じでいたからです。しかしある日「向き合うってことは、否定しないってことじゃないかな」と、ふっと気がつきました。そうするとカウンセラーのアドバイスがスーッと入ってきてずいぶん肩の荷が軽くなったように感じられだしたということです。

「この人、いやだなあ」という人がいます。奈美さんは以前だったら「完全にきらい、顔も見たくない」になっていました。白黒つけないで、あいまいにするのがいやだった奈美さんですが、このごろは変わってきました。「この人のこの点はいやだけど、こういう分野ではつきあえるな。じゃそれでいいか」と、場合分けをして納得している自分がいるなと思い始めました。

「自分が気がついたことや気になることにとことん向き合って、納得のいくまでこだわり抜く」というアドバイスを受け入れられるようになった奈美さん。「完ぺき症」という自分の持ち味を否定せず受け入れるということに気づいたのも大きく変わるきっかけになりました。

「まー楽は楽。この分野ならこの人に頼んでもいけるやろ。この場面ではあっちの人に頼もうかって思えるようになったわ。ずいぶん楽になったなー」と、つぶやいているこのごろの奈美さんです。

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