「小さなひっかかること」を、書き留めて(佳代30才 摂食障害・過食症歴5年)

過食症の治療で役立つ小さな質問

  • どうすれば過食を止められますか?
  • 体重を減らしたいんですけど、いい方法を教えてください
  • 過食を治したいんです。他のことはいいんです

こうした質問は過食症のセラピーをスタートしたころよくだされるが、これに対する答えはなかなかでてこない。また出せたとしても、すぐに結果をだすのは至難の業であろう。この種の質問を「過食症の大きな質問」と呼んでいる。これらとは逆に「小さな質問」もある。質問と言えるほどのことでないので「小さなひっかかること」と呼んでいる。

佳代は過食症になって5年がたつ。来所して3年。どうしても前述の「大きな質問」へのこだわりが強く、「私の過食が止められないんだったら、セラピー受けてもムダです」と詰め寄ったり、「こんな太った身体、だれにも見られたくない」と、引きこもってしまったりの連続だった。すったもんだをくり返したすえ、最近ようやく「『大きな質問』にこだわっていても、過食は治らないんだな」、ということがわかってきたようだ。

「食べたくなる」ときはどんなとき?

面接室に座っている佳代の様子がまたおかしい。暗い表情で、元気がない。「どうかしましたか」というセラピストの問いかけにも黙ってうつむくだけ。そばにいる母親が説明をはじめた。(以下はセラピストとのやりとりの抜粋である)

母親:それが、お父さんのことでもめてるんです。もう私も間に入って、疲れてしまいます。

セラピスト:なにかありましたか。

母親:たいしたことやないんです。口にだして言うのもなんか恥ずかしいくらいで。

セラピスト:お母さん、その「たいしたことやない」をお話ください。 いや、ちょっと待って。佳代さんに話していただきましょう。佳代さん、ゆっくりでいいから、なにがあったか話してくれますか?

佳代:(安心したように)あのね、ひっかかってしもて、とれへんのです。なんかもう、腹たって。お父さんきらいや。

セラピスト:ああ、そうですか。お父さんとのことでひっかかることがありましたか?それはどんなこと?びっくりするくらい小さなことでもいいですよ。

佳代:はい、あのね、お父さんね、みかんをナイロンの袋からだしたあと、袋の口をたたまないんです。

セラピスト:袋の口を、ですか?

佳代:はい。それがいやで。気になって、気になって。あんな袋がピラピラして見苦しいわ。

母親:そんなことくらい、自分でそのときゆうたらええのに。

佳代:そんな、よういわん。お父さんこわいもん。

セラピスト:そうですか。その「ひっかかること」が元で、「なんか食べたくなってしまった」というんですね。

佳代:はい。食べたら「ひっかかること」を忘れられる。忘れたい忘れたいが「食べたい」になってしまって、止められられへんのです。

セラピスト:そうですか。その小さな「ひっかかること」ってよくありますか?

佳代:はい、毎日。お父さんだけちがう。お母さんにもある。

セラピスト:そうですか。それじゃその「ひっかかること」を、一度書きとめてみましょうか。できますか?

佳代:どんな紙でもいいですか?やってみます。

母親:先生、そんなアホみたいなことでも書き留めるんですか?

セラピスト:お母さんにとっては、小さいことかもしれませんが、佳代さんにとっては、大きなことかもしれません。いっぺんやってみましょう。

あるある「ひっかかること」いっぱいでてきた

こうして二週間後、佳代はレポート用紙に「ひっかかること」を書きとめてもってきた。「先生、こんなにようけありました」と、佳代の声ははずんでいるし表情も明るい。「エプロンはきちんとたたんでしまってほしい」「タオルは裾をそろえてかけること。ゆがんでるんは見苦しい」「小さいお皿の上に大きいのがのっている。あぶない」というふうに、小さいけれど「ひっかかることが、いっぱい書かれていた」。

「うーん、こんなにありましたか。小さくても溜まっていくとずいぶん大きくなりますね。一つ一つをしっかり見ていきましょう。佳代さん、説明してくれますか」と、セラピストは佳代に語りかけた。一つ一つの小さな「ひっかかること」を指でおさえながら、佳代は生き生きと情景がイメージできるように説明しはじめた。

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