「家族」をあつかう難しさ1

他にもいろんな症例があります。たとえば42才の強迫神経症の男性ですが、これまで一度も職についたことがなく、自分の手がきれいか汚いか、ただそれだけを考えてきたような人です。20才過ぎから現在まで朝起きたときから顔を洗うまでのやり方が滞りなくできたかというようなことばかりを気にし、20年近くも外の社会と交流を持たず生活してきたということです。そういう人の場合は、心がかたく閉ざされておりなかなか開きません。自分の手がきれいか汚いかということにずっとこだわって、ただ手をじっと見て暮らしてきたわけです。こちらが何かいいかけても、弱々しい声で「ええ」と答えるだけで、逆に何かポンと問いかけると、顔を急に緊張させたまま一点をじっと見つめているだけでした。「ちょっと悪かったかなー、邪魔してしまったかなー」というような気もちにさせられることばしばしばありました。

病院でもあまり他の入院患者とのつき合いもなく、自分一人の世界に閉じこもっていました。もし心を開いていろんな人とつき合うようになったら、この人の人生はかなり変わるのではないかと思いました。

その頃ちょうどいい機会があったんです。その人にはかなり高齢のお父さんがおられたのですが、聞くところによると、お父さんと息子さんの間にはかなり深い溝があったようなんです。そのお父さんは病気でずいぶん体が弱っておられたのですが、遠方からはるばる面会にこられました。「私は長い間病気で、もう老い先も短いし、これが最後の面会になるんとちがいますやろか」と言われるのです。これは大きなチャンスだと思いました。同時に、この父と子は心の底ではお互いにものすごく気をつかい合っているということもわかってきました。「これは何かひとつ二人を結びつけるきっかけを作らねば」と思い、父と息子の対面のドラマを仕組みました。

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