「宴会係」という心ない上司の言葉に傷ついて

明るく活発な社員と思われていたはずなのに

入社して三年目を迎えた佐藤さん(24才仮名)は、面接室で腕組みをしながらうつむいていた。「自分がよもやカウンセリングを受けるようになるとは」という思いでいっぱいだった。担当セラピストにうながされ、事のいきさつを語り始めた。

電気機器メーカーに勤めてから、第一営業部に配属され、その明るく活発な人柄で上司にも同僚にも評判がよかった。それが半年ほど前からなんか元気がない。やる気がわいてこないのだ。自分でも思い当たる節はあるのだが、「いつまでそんなことにこだわってるんだ。自分らしくないぞ」という否定感で打ち消そうとしていた。以下はカウンセリングでのやりとりの一部である。

佐藤:いやー、まいってます。自分てこんなに女々しい性格だったんかなって。

セラピスト:忘れようとしても忘れられないんですか?

佐藤:はい。あの時の上司の言葉にカチンときて。ショックでいまだに怒りがわいてくるんですよ。僕が「春のお花見会」の幹事をまかされて、準備に追われているときにですよ。本当なら「お疲れさま」くらい言ってもらって当然なのに、『えらい楽しそうやな。こんどは宴会係にいってもらおか』ゆうて、からかうみたいに笑って。「くそ、こいつ何ゆうとんや。どついたろか」と、思いましたね。

セラピスト:幹事さんて大変なんでしょう?

佐藤:そうですよ。通常の仕事に加えていろんなことせんとあきませんので。場所取りに行くもんとか、お酒や弁当の数を数えて注文するとか。余興の人だのみもせなあかんし。もうてんてこまいで。僕はぜーんぶ仕事終わってからそんなんをやってたんですよ。それやのにあいつゆうたら、しごとさぼって宴会に嬉々として走り回ってるかのように言うんですから。

セラピスト:それでどうしました?その上司にくってかかりましたか?怒りをぶつけましたか?

佐藤:いやー、それがですね。僕っていいかっこしーなんです。とっさに『はあ、なんとか頑張らしてもらってます』なんか、頭かきながら笑って。そんな僕にも後になって考えたら腹がたって。同僚にぐちこぼしたら「そこが佐藤のええとこやんか。なんでも明るくさらっと受けてながしてするとこが」言われて。

セラピスト:そうですか。でもすっきりしなかった。それどころかずーと腹立たしい思いが尾を引いている。果ては仕事もやる気がわいてこないというわけですね。

佐藤:はい、そうです。

セラピスト:その上司に対してなにか失った感じはしませんか?なにか形はないけど大事なものを?

佐藤:そういわれると、それ以来「信頼感」がなくなりました。「宴会係」ゆう言葉をやけに真剣にとらえてしまったなあという気もします。その上司が人事担当部長と親しいということを知っていたので、よけいそう思ったのかもしれません。こんな会社やったんかという思いが強くて。

セラピスト:佐藤さんは、ほんとうに明るくさわやかなこだわりのない好青年ですか?会社内外の評判はそうですけど。また今までのあなたはそうでしょうけど。本来の自分はどうですか?どこか本質の部分では「こだわる自分、きつーい激しい面をもった自分」がいませんか?

佐藤:はー、自分でもなんか今までと違う自分を感じてるんでがーー

セラピスト:そうですか。こんなに一つのできごとに腹が立ち、ここまで尾を引いているという事実をみると、地殻変動をおこしてマグマが噴き出してきたように、本質の自分が出てきたのかもしれません。ところがそんな自分にとまどったり、うまくコントロールできないまま失速してきたとも考えられます。

佐藤:ほんまに自分は明るいだけの男やったかなーと、振り返ってみて思うことがあります。親に叱られてもわりと素直やったんですけど、一回だけものすごい反抗して家出したことがありました。小学6年のときです。えらい思いきったことができるんやなーと自分でも驚いたことがあります。

セラピスト:それではこれからどうしたらいいか。新しく底から出てきた本質の自分を否定するんではなくて、どうすれば受け入れて成長させていけるかですね。激しい、気にしー、恨みがましい自分をです。どうすれば受け入れられるかはこれからいっしょにカウンセリングで話し合っていきましょう。三ヶ月ほどたったころ「佐藤さんて、明るいだけの人やと思ってたけど、なんか一皮むけて人間の幅が広がらはったね」と言われるように。

佐藤:そう言われてみると、今まで激しいとこが出し切れてないと思います。怒りや悲しみが深いとこで眠っているような気がします。

セラピスト:抑え込もうしてもこれからは無理なんです。むしろ「そんな自分こそが本当の自分なんや」と考え受け入れるほうが、本当のあなたの成長につながりますよ。

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