「アスペルガーですから、治りません」

小さい時から人とのコミュニケーションがうまくとれない

伸治(20才)の母親は、通された面接室で待っていた。うつむき加減で、どことなく暗い表情である。それもそのはず電話受付の段階でわかったことだが、息子の伸治に「アスペルガー症候群」というラベルがはられてから、二年がたつ。「アスペルガーとありますが、どんな状態でしょうか」というカウンセラーの問いかけに、母親は意を決したように語りはじめた。

「はい、小さい頃から落ち着きがなくて。幼稚園でもすぐにたたきにいったり、物を投げたりして。そのときは『伸ちゃん、乱暴してはいけませんよ』という先生の制止の声かけくらいでおさまっていたのですが」。

「小学校5年生のとき、クラスの同級生の男の子を怪我させてしまったことがありあります。掃除の時間、伸治ともう一人の子がさぼって暴れていたので、注意をしたらしんです。そしたら伸治が「うるさい、ガタガタえらそうに言うな」と、持っていたほうきでなぐりかかっていって。頭を三針ほど縫う怪我なんです」。

いろんなことがあったけれど、どんなに叱られても注意されてもその時だけで忘れてしまうようだと。だから小さい頃から友達関係がうまくいかなく、孤立しがちだったと。

比較的勉強はできたので、高校の入学試験には合格できた。しかし入学後の生活があまりにもルーズで、規則を守らないので注意をうけてばかりいた。伸治は注意をされると、「先生だって、タバコくわえたまま歩いていたじゃないですか。それでいいんですか」と、逆にあら探しをするので「なんて憎たらしいやつや」と、きらわれてしまっていた。一方クラスのみんなからは「ルールを守らないわがままなやつ」と、思われていたようだ。私立高校だったので、卒業だけはなんとかさせてもらったけれど、それ以後、ひきこもりのような、好きな時に好きなことでは動けるニートのような生活を送っているという。

「アスペルガーです」って言われたんですけど

「それで心療内科へいかれたんですね。そこでアスペルガーだと?」「はい、『生まれつき脳に障害をもっているので、治りません。発達障害の一つだから』。それでおわり。そんなこと言われて、親としてはどうしていいかわからないじゃないですか。治らないものだから、ほっておけという意味なのか。毎日毎日この子をみながら過ごしている親の気持ちにもなってみてください」と、母親は涙声で話す。

母親は心療内科から帰ってすぐにインターネットで「アスペルガー症候群」と打ち込んで検索してみた。家族にむけた対応のアドバイスはないが、症状についての説明は詳しく書いてある。要約するとこの症状は次のように書いてあった。

アスペルガー症候群は自閉症の一つのタイプです。・・・・(1)他の人との社会的関係をもつこと、(2)コミュニケーションをすること、(3)想像力と創造性の3つの分野に障害を持つことで診断されます。・・・・(1)の社会的関係をもつことというのは、他の人と一緒にいるときに、どのように振る舞うべきかということです。(2)のコミュニケーションとは自分の思っていることをどう相手に伝えるか、そして相手の言いたいことをどう理解するかということです。最後の(3)想像力と創造性の問題とは、ふり遊びや、見立て遊び、こだわりと関係します。(日本自閉症協会 東京支部HPによる)

伸治の様子はあたっているようなところもあるし、そうでないところもある。それよりも、親としてどうすればいいか教えてほしい、具体的にアドバイスをくれるところはどこかないか。それで再びインターネットで検索したところ、淀屋橋心理療法センターの名前にゆきついたという。

カウンセリングがスタート

面接室での母親とカウンセラーのやりとりを紹介しよう。治療のスタートにおいて何が大事か、何が必要かがカウンセラーから話される。

「アスペルガーですから、治りません」。

まず<ふだんのご家族の様子>をおみせください

カウンセラー:このままアスペルガーは治らないからと、ほっておいたらこのままでしょう。本当に良くならないのか。それとも対応の仕方で少しづつでも好転していくのか。やってみないとわかりませんが、親がこつこつ地道にがんばらないと。どんなふうになってくれたら、「ああ、よかった。治療を受けてみてよかった」と思われますか?

母親:今の状態から抜け出してくれたら。朝ちゃんと起きて、また学校へいくなり働き出すなりしてくれたら。そんな様子が少しでも見えてきたら、よかったと思います。

カウンセラー:そうですか。それにはふだん接しておられる親御さんの頑張りが必要です。小さな良い変化を見逃さず、喜べる母親と父親。お互い協力しあいながら、こつこつと治療の課題をこなしていく熱意があれば、アスペルガーは良くなる希望はもてます。くじけそうになっても親御さんがやる気さえ失わなければ、私も頑張りましょう。

母親:ありがとうございます。主人もきっと一緒に頑張ってくれると思います。この子のことについては、児童相談所やカウンセリング機関など、あらゆる所に一緒に行きましたので。逆に先生のお話を伝えたら、喜ぶのではないでしょうか。

カウンセラー:そうですか。だけど道のりは遠いですよ。伸治君は、性格的にきむずかしいところがあります。それでもこの性格の子にはこう対応すれば、カッとする度合いも少なくなるとか、回数がへってくるとかいう事はあるでしょう。お父さんの来所は可能ですか?

母親:はい、それは大丈夫です。毎回というと、ちょっとわかりませんが。とりあえず今の段階でできることはないんでしょうか?

カウンセラー:深い理解もできないまま、あれこれ手だけうってもダメでしょうね。思いつきで変えていけることではありませんから。それに今やり方を変えられると、現実の問題点がよけいみえんようになるだけです。ありのままのご家庭の様子をお話ください。それをまず知らないと。アスペルガーの治療の方向づけをするうえで、一番だいじなことです。

母親:わかりました。今私たちの生活を今までのやり方のままで過ごして、それを先生にお知らせするということですね。それは一番私にとってやりやすいことです。変えなくていいというのは。

涙ではじまった面接だが、ほっとした表情で母親は帰っていった。次回の予約は一週間後。果たしてどのような治療展開になるか。カウンセラーは頭の中で、いろいろな可能性をさぐっていた。

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