お父さんの出番をこしらえて|子育ての悩み

子育ての悩み
お父さんの出番をこしらえて

「それはな、お父さんに聞かんとわからへん。お父さんやったら知ってはるさかい」

幸恵(18才専門学校生)はバイクを買ってほしくてたまらない。「ねえ、ピンクのバイクなんやけど、こうてえな」と最近はうるさく母親につきまとっていた。この2月にやっとの思いで合格したバイクの試験。心配だった実技もなんとかクリアーできた。ここまできたらやっぱりバイクがほしい。

幸恵は高校一年のときに対人関係のトラブルから引きこもり状態になり、高校を中退している。そのとき父親に言われた言葉が忘れられない。「バカもんが、そんなことくらいで学校やめるな!おまえみたいことゆうてたら、世の中やっていけへんぞ」。理由も聞いてくれず、泣いて訴える幸恵の気持ちもわかってくれず、ただ怒鳴るだけだった。

あれから三年。自分の部屋に引きこもり、母親としか話しをしようとしなかった。父親が会社から帰ってくる時間になると自分の部屋へひっこみ、翌日出勤するまで出て来ない。外へ出るのはコンビニに週刊誌やマンガを買いにいくくらい。そんな一年間が続いたのち、母親が当センターに来所した。

セラピスト(カウンセラー)は、まず母親の話しをじっくり聞いたのち、治療プログラムをおおまかに説明した。

アドバイス第一段階: 幸恵と母親の信頼関係を強める

幸恵が母親に今以上の信頼感をもって話せるようになることが目標。それには毎日の会話をつけてもらい、母親に対応のコツを指導する。返事の仕方や言葉のかけ方など、日記にもとづいてこまかくアドバイスを重ねていった。そのおかげで三ヶ月たったころにはかなり母親にうちとけてきだした。「幸恵ちゃん、きょうデパートへいくけど一緒に行かない?あんたのすきな洋服かってあげるよ」「え、ほんと、どうしようかな」と、迷いながらもイエスの返事をしてついてきた。時間の経過とともに自分から電車に乗っても外出できるようになった。そんなおりバイクの免許をとりたいと言いだしたのだ。

アドバイス第二段階: 自分で段取りが組めるようヘルプ

バイクの免許といっても、そういっぺんにうまくいくものではない。いままで対人的な面ではほとんど外部の人と会話を交わしていない。母親とてバイクの免許をとってないので、どう助けてやったらいいかわからない。とくに幸恵は未知のことには慎重なタイプだ。取りたい気もちが一歩踏み出せる行動力に変わるには、自分で自分の行動のイメージが描け、段取りが組めるようになることが必要だ。

セラピスト:お友達で取っておられる方はありませんか。その人に会ってでも本を貸してもらうとか、勉強のこつ聞くとかはできませんか?

母親:わかりました。一人近くにいますので今日行ってみます。たしか教習所の資料ももってると思います。

セラピスト:試験日とか試験場とかもわかるといいですね。そこへ行く交通手段や時刻表、試験場の見取り図なんかも助けになります。できるだけ幸恵さんがイメージが描けるような資料がいいのです。とりたい気もちが行動に移せるには、こうした資料がないと移せません。

こうしたやりとりの後母親は友人宅を訪れ、かなり具体的な資料を手に帰宅し、幸恵にわたすことができた。

アドバイス第三段階: 父親の出番をこしらえて

幸恵はみごと合格した。母親のもって帰った資料をもとに本屋にも出向き、自分で最新の問題集を購入してきたりした。試験会場にも前もって母親と下見に行き、自分の教師積む確認。当日は母親も信じられないくらい落ち着いて受験できた。そして夢にまでみた合格を手にすることが出来たのだ。

さてここで冒頭の「バイク買って」になるわけだが、ここでセラピストはアドバイスを出した。

セラピスト:今まではお母さんのヘルプでなんとか切り抜けてきました。さてそろそろお父さんの出番ですね。やはり高額の買い物になるわけですから『お父さんにきいてみないとね。お母さんだけではきめられないんや。機械のことわからないし』とか言って、お父さんを出してきてください。それとお父さんにも動いてもらわないと。幸恵さんにしてみれば、三年ぶりの快挙なんですからやはりほめてあげてほしいですね。「よくがんばったね」とか。

母親:三年間二人は口をきいてませんのや。言えますやろか。父親がゆうたら、部屋へ逃げ込んでしまいませんやろか。せっかくここまで幸恵が出てくるようになってますのに。

セラピスト:ご心配はわかります。しかしこれも一つのいいチャンスですよ。思いきってやってみてください。ほめられて、認められていやな気はされないと思いますし。

家に帰って母親はすぐに父親にこの話しをした。父親にしても娘が憎いわけではない。ずーっときがかりだったのだが、きっかけが見つけられなかったのだ。明くる日父親は幸恵の好きなキティちゃんのぬいぐるみとケーキを買って帰った。幸恵の部屋へ行き「幸恵、バイクおめでとう。これお祝いやで。よかったな」と、手渡した。なんともいえないバツの悪そうな顔をしながら幸恵は受け取ったという。

それから幸恵のバイクを買いに行く日が決まった。父親もいっしょに、近くのショップへ。お金を出すのはもちろん父親だ。幸恵の父親に対する気持ちも少しづつだが、雪解けを迎えているようだ。

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