「拒食症は食べ物をめぐる命との戦い」(第二話 後編)|摂食障害 カウンセリング治療専門外来(過食症・拒食症)

摂食障害 カウンセリング治療専門外来(過食症・拒食症)
「拒食症は食べ物をめぐる命との戦い」(第二話 後編)

『過食症と拒食症』 ― 危機脱出の処方箋 ―福田俊一、増井昌美著(星和書店、2001)より

拒食症は食べ物をめぐる命との戦い。

後編

2.「治療開始後一年:母親との早歩きが突破口に。手についたご飯粒が食べられた由美」

母親:このさつまいもおいしいよ。おばあちゃんとこの畑でできたのよ。

由美:おいもは太るから、いや。

母親:じゃきうりは?これもおばあちゃんとこのよ。

由美:きうりならいい。おばあちゃん、私のことなんて言ってるの?

母親:「由美は細くて折れそうだね」って心配してたよ。だから畑の野菜を送ってきてくれたんでしょうね。

由美:おばあちゃんにまで心配かけてるのか、私。おいしいよこのきうり。

母親:そうだ、食べた後、お母さんと早歩きしない?あれはからだにもいいし、エネルギーの消費もけっこうあるってこないだテレビで言ってたよ。

由美:うん、いいよ。食べた後、トイレで30分も頑張ってるのしんどい。そのほうがいいかも。だったらそのさつまいも一口たべてもだいじょうぶね。

(二人で家を出発して約一時間近く、川沿いまででて南へ下って当たりを一周して帰ってきた。それからというものこれが由美と私の日課となった。歩いていると由美がいろんなことを話してくれるので、私もうれしくて。以下は由美が私に話したことをまとめたものです。)

母親:お母さん、わたしね、頭のなかは90%食べることでいっぱいなの。いつも食べ物のカロリー計算して、きょうは何カロリーとったかなとか。あれを食べようとか、これはだめとか。それがね、お母さんと歩くようになってなんか変わってきたの。こないだご飯よそってたら手についたのね。ふつうはなめるよね。でも私は「太る」って思うからいつも洗い流してた。それが気がついたらなめてたの。えー、ってびっくりした。パンくずでもお皿に残ってたら全部捨ててたけど今は食べてるし。

由美:ほんと、よかったね。

母親:お母さん、こないだ川原で猫の子がいたでしょ。やせてガリガリになってて。「かわいそうに、お母さん猫がいないんだ」って私言ったね。あとで思い出してハッとした。私もあんな姿なのかもって。私にはお母さんいるよね。だから食べてもだいじょうぶ。お母さんといっぱい歩けば太らないって思えるようになったきた。歩いた後、汗いっぱいかいてスッキリしたよね。楽しくなってきたの。行ってよかった。なんか生まれてはじめて、食べることを拒否する以外でスッキリした感じがしたの。歩くコースも私が行きたいところに合わせてくれてるし、うれしかった。これからもいっしょに歩こうね。

Q&A

Q&Aコーナー

Q:由美と母親の関係がよくなってきたのが伝わってきます。やはりこの点を重視して治療をされてきたのでしょうか?

A:はじめのころ由美の心は不信感でいっぱいでした。両親だけでなく専門家への不信感も相当ありましたね。「いまさら何をしたって治るものか」という気持ちが、表情と声の調子にでていました。無理もありません。八年間あらゆる治療機関をまわってだめだったんですから。いっぽう「なんとかしてほしい。お願いです。治してください」といったすがる気持ちも伝わってきました。そこでまず拒食の治療の第一段階として「不信感を取り除く」ことにしたのです。一番信頼感を得やすいのは母親との関係を変えていくことです。それができれば治療者への信頼感も芽ばえてくるでしょうし、父親やきょうだいへの気持ちも変わってくるはずです。

Q:半年でかなり信頼関係を結べたと言っておられましたが、どんな方法で?

A:一番のポイントは生活の記録です。毎日の記録をもとに、由美のようなこだわる子、がんこな子への対応のこつを具体的に母親に指導してきました。例えば「この返事はいけない、しゃべるのは半分に、イエスでまず受けて間をおいてからノーをだす」といったようなことです。地道な対応のこつを積み上げていくうちに由美の心に「お母さんは私のこと受け入れてくれてる」という気持ちがわいてきました。と同時に母親の心配を取り除く対策もたてていきました。「この子は栄養失調で死んでしまうんではないか」という不安から解放してあげないと、食べ物への干渉はおさまらないでしょうから。紹介した内科医で定期的に検診を受け検査してもらうようにしました。身体のことは身体の専門家にまかせるというふうにしたのです。これで母親もやっと由美の食べる食べない領域から目をそらせることができだしたのです。由美の好きな洋服や絵などに共通の話題を増やしていったり、ここで紹介した早歩きもそのうちの一つですが、一緒に楽しいことをするようにすすめました。

Q:本人が元気になってきた、拒食から立ち直れる兆しが見えたというのはどんなところでわかりますか?

A:そうですね。これはこの症状を持った多くの人に言えることですが、まず話題に食べ物のことがでる回数が減ってきます。出たとしても以前のようにくどくどしつこくなくなってきます。当然のこととして食べ物以外の話題がぽつぽつ増えてきます。由美も「あの洋服ステキ。ほしいな」と言い出したりしましたね。猫の話しもでてるでしょう。結局あのガリガリ猫を拾って由美が飼うことになったんですよ。食べ物以外のことに関心が向いてきたか、これがまず第一のサインでしょう。次は由美がしゃべっている量に注目してください。ずいぶん多くなりました。母親は一行だけですが、由美はすごい量ですね。この量が一つの目安です。だから記録をつけ続けることが大切なんです。しゃべり方にも勢いがついてきますよ。

来所当時の由美の日記と、治療終了後一年たって届いた手紙。

由美は猫を飼いだしてからさらに食べ物へのこだわりは少なくなっていった。母親との会話が増えるにつれ他の家族との関係もしだいに好転していった。来所して約一年半、由美のケースはフォロー(経過観察)の段階へと入ることができた。治療終了をみてから家業を手伝いながらの日々と聞いていたが、新しい職場に就職したらしい。一通の手紙をくれた。来所当時の手記と読み比べてみると、いかに食べ物へのこだわりがなくなってきたががよくわかる。

来所当時の由美の日記から

がんこに食を拒否する拒食症の人の心の奥が如実に表れている部分である。(抜粋)

『あーあ、うるさいお母さん、消えてなくなれ!

やせてるとすごく安心。やせてることがいまの私にとても大事なのよね。からだが軽く感じられるし、なんか空を飛べるみたいに思えて、明るい気持ちになれるの。それにお父さんもお母さんも心配してくれるから、家での居場所があるし。太ってしまったらきっとまた弟のことばっかり。わたしまたいっぱいいっぱい辛い思いをするんじゃないかしら。やせてるほうが「守られてるんだ」って思えるからうれしい。

お母さんに「食べなさい」って言われても、「食べない」ことで自分を主張できるし。なんか自分がとても能力のある人間に思えてきて勇気がわいてくるの。

バカなことしてるってわかってる。まわりの人が心配してるってわかってる。でもやせてることは私にとって大事なことなのよ。やせてないと自分じゃないみたいに思える。やせてることが私の唯一の自己主張の砦だから』

治療終了後一年たって届いた手紙

来所から約三年が経過(抜粋)

『先生、お元気ですか。私はいま思いきって外へ出ています。(略)働いてみて感じたのは「厳しいな、ストレスたまるな」でした。一番しんどいストレスはやっぱり人間関係ですね。上下関係がはっきりしているので、きついことも言われます。先日もベテランの人に「そんな言葉づかいしてたら、客商売は通用しないよ」と叱られました。「そんな漢字も知らないの」と言われたのにはムカッときて「もうやめてやる」と思わず言いそうになりました。家に帰ってお母さんにいっぱい愚痴を聞いてもらってスッとしています。

しんどいときは食欲がなくなりますが、食べないとあした職場で倒れるかもと思って頑張って食べるようにしています。お母さんが「しんどかったら、やめてもいいよ」と気軽に言ってくれたのが意外でした。「世間体が悪い」とか「やっぱり弱虫ね」とか言われると思っていたのに。仕事やめるの、とても罪悪感があったけど、「やめてもいいんだ」と思えるのでずいぶん気が楽になりました。それでよけい頑張ろうと思えるようになりました。

一つ発見したんですけど、お母さんは心配性だとわかりました。だから心配かけないよう食べるようにしています。もっと早く気がついていたら「私のこと監視してるんだ」と思わなくてすんだのに。もう「食べなさい」とは言いません。言われる前に私が食べているからです。

お母さんとよくけんかします。でも前とちがうのは「どこで主張してどこで折れるか」がわかってきたことです。二人ともそう思ってるみたいなので、仲直りも早くなりました。いろいろあったけど、私はやっぱりお母さんが大好きです。(略)』

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