「拒食症は食べ物をめぐる命との戦い」(第二話 前編)|摂食障害 カウンセリング治療専門外来(過食症・拒食症)

摂食障害 カウンセリング治療専門外来(過食症・拒食症)
「拒食症は食べ物をめぐる命との戦い」(第二話 前編)

『過食症と拒食症』 ― 危機脱出の処方箋 ―福田俊一、増井昌美著(星和書店、2001)より

本書は当センターで治療したケースをもとに執筆、星和書店より出版したものです。本文のなかから症例や治療のポイントを抜粋しながら、要点やあらすじをシリーズでご紹介していきます。全文をお読みになりたい方は、本書をごらんください。なお本書は全国各地の主要書店にてお求めになれます。(\1800)

拒食症は食べ物をめぐる命との戦い。

一章親子の葛藤をのりこえ、信頼関係を築く

(2)拒食症は食べ物をめぐる命との戦い

拒食症は食を拒否するという不可思議な行動にでる病気。頑固なまでに拒否するので命を落とす恐れがある。それだけに内科医との連携治療が欠かせない。身体の機能維持を任せられる体勢ができると、セラピーは心理面に集中できる。拒食症の治療は長期化するのが通例なので、まず内科医、セラピスト、家族、必要ならば学校の先生といった関係者が助け合いながらの体勢づくりが肝心である。

家庭でもできる危険の目安となるのはなんと言っても体重であろう。標準体重の20%以上のやせが三ヶ月以上続くと内科医の指示にしたがって入院か否かを決めなくてはならない。その体重をどううまく本人を動かす機動力に使うか、そこに拒食症の家族療法におけるこつの一つがある。

1.「ランチセッションにみる拒食 - ガンコに食べないのはなぜ?」

症例1:食を拒否するのは私の生きがい、自己主張の砦よ
由美(本人、21才、学生、拒食歴8年)

中学生のときに発症。はじめ家庭科の本にでてくる食べ物のカロリー計算に興味をもったのがきっかけだった。三才歳下の弟に「ブタマン」とからかわれてつかみ合いの大げんかとなり自分が太っていることを気にしはじめる。またその時母親が「由美はお姉ちゃんでしょ」というおきまり発言で弟の味方をしたのが許せななかった。それからいろんな治療期間をまわりまわってえんえんと八年が経過し、当センターに初来所ということになった。八年続いた拒食を治療するのは容易なことではない。症状の度合い、家族のかかわりの問題点、事態の深刻さなどを正確に把握するため、ランチセッションも一つの重要なアプローチである。

面接室の机に白いテーブルクロスがしかれ、ランチセッションの準備が整った。家での食事風景を再現しながら食べ物を拒否する本人と母親のやりとりを、そこへ介入するセラピストの発言をみていこう。

1.【治療開始後二ヶ月:やせてたらお母さんが本気で私のほうを向いてくれる】

セラピスト:それでははじめましょうか。いただきます。

母親:いただきます。さあ、由美たべようか。あなたの好きな物ばかりでしょ。

由美:いただきます。(お箸をとって食べ始める。最初はご飯を少し口にいれたり、好きなひじきの煮物を食べたりしている。だんだんお箸の動きが止まりだす。)

母親:ほら、ほうれん草もあるわよ。栄養とらないとね。

由美:(ぱっとお箸を投げるように置き)また干渉するの。

母親:なにも食べてないじゃない。先生、いつも食べ物のこと、ちょっと言っただけでこんなに怒るんです。

セラピスト:なるほど、そうですか。なんとか食べさせてください。

母親:はい、わかりました。ほら、これ食べようね。

由美:いまお腹痛いからあとで食べる。おいといて。

母親:またそんなこと言って。口に入れてあげるから。

由美:イヤ、飲み込まないわよ。

母親:なに言ってるの。食べないと死んでしまうわよ。(口にむりやり入れようとする。)

由美:やめて!そんなことしても、私は絶対食べないから。

母親:ダメです、先生。食べようとしません。昔はこんな子じゃなかったのに。

セラピスト:なるほど、いつもお家ではこのような問答が繰り返されているんですね。わかりました。食べさせるのはそれくらいにして。由美さん、ちょっと聞いていいですか。やせてると何かいいことあるの?

由美:やせてるほうが頑張れる。気もちも明るくなれるし。

セラピスト:それだけ?ほかにないかな。こんなに長く続いてるんだから、ほかにもっといいことあるんじゃない?

由美:うーん、ほかにね。たぶんふつうの体に戻ったら、お母さんにかまってもらえなくなると思う。弟のほうばっかり向いて。あまえてるかもしれないけど、心配してもらってるのはうれしい。

セラピスト:うれしい反面、監視されてるという気もちもあるでしょう。いまは「問題起こす」→「お母さんがかまってくれる」といパターンになっていますね。そうではなく、他になにかしたときお母さんがかまってくれたということはありませんか?

由美:熱だしても寝てるだけだった。口開いたら「お姉ちゃんでしょ」だったよね、お母さん。私のこと、なんかかまってくれたことあった?

セラピスト:なるほど、少しみえてきました。由美さんが拒食になったプロセスを追ってみましょうか。たまたまダイエットすることでやせてきてうれしかった。体重が減るってこんなに充実することかと気がついた。と同時にやせてきた由美さんをみて、お母さんが心配しだす。「もっと食べないと」「あれ食べ、これ食べ」とかまいだす。「やっとお母さんが私の方を本気で向いてくれた。お母さんに心配してもらって、同時にやせていられるってステキなことじゃない」と、由美さんはうれしい。しかしそうはいうものの、食べることに関してはうっとおしいという拒否感がわいてくる。今はそうした複雑な気持ちじゃないですか?

由美:はい、そうです。うれしいんですけど、同時に「絶対にお母さんの言うこと聞くものか。自分は自分なんだ。人に動かされてたまるか」っていう気もちがわいてきて。お母さんに「食べなさい」と言われれば言われるほど、よけいいじっぱりになって。

セラピスト:「負けてたまるか。勝ったぞ。お母さんに勝ったぞ!」という気もちになるんではないですか?

由美:はい、こんな気もちに生きがいや充実感を感じだしました。

母親:あんなに素直だった子がもうなにを言ってもダメで。どんどんやせていくから心配でたまらないんです。それでつい口うるさく言ってしまうんですが。

由美:ダイエットでやせてきてうれしいのに、まわりが心配して食べさせようとするのが攻撃されてるみたいに思えて。「お母さんらの思わく通り太らされてたまるか」って。

セラピスト:反抗心がムラムラとわいてくるんですね。

由美:はい、そうです。やさしい言葉や気もちが、自分を陥れようとするみたいに思えて、素直に受け止められなくて。

母親:隠れて吐いてたんですが、ばれてからは目の前で吐くようになりました。私が「吐いたらだめ。栄養とらないと死んでしまうじゃない」といって必死で止めると、この子は「吐かせて。吐かないと胃で吸収してしまう。太るから吐かせて」と、泣きわめいてトイレへ行こうとするし。私の手を振りほどこうとたたいたりつねったり。もう地獄でした。

由美:あのころはべつに死んでもかなわない。ええい、死んでやるってやけっぱちになってました。

セラピスト:食べることで意地はらなくても、別のことで意地がはれるようになったらいいんだけどな。そこでスッキリ感が味わえればね。お母さん、お母さんは由美さんのようなこだわる子意地を張る子にどう対応したらいいか、わかっておられませんね。それが見ていてよくわかりました。これからお母さんにはそこに焦点をあてたアドバイスをしてゆきましょう。

Q&A

Q&Aコーナー

Q:ランチセッションについて説明してください。

A:面接室で本人、家族とセラピストもいっしょに食事をします。ふだんの食卓風景を面接室で再現してもらうというのがランチセッションです。準備の様子から観察しています。本人はどのくらい手伝うのか、手伝わないのか。座る位置はどうか。だれが食事の主導権を握っているのか。本人の食べ方はどうか。それに対して親はどうでるのか。本人の反発の仕方や強さなどもわかります。いろんな重要なポイントが見えてくるのがランチセッションです。

Q:この時点で由美さんの身長と体重の割合はどのようなものでしたか?

A:身長は153cm,体重は40キロくらいでしたか。もちろん標準体重よりはるかに下回っていますし、内科的処置が必要な域に達しています。定期的に内科医での検診は受けてもらっていました。

Q:それでも母親としては心配な状態ですね。つい「食べなさい」と言ってしまうと思うのですが、それを言うとよけい反発して食べないし、ほっておくとまた食べない。いずれにしても由美さんの体重が増える方向にはいかないですね。

A:そのとおりです。お母さんにかまってもらったり心配してもらったりして本当はうれしいはずなんですが、それが体重が増えることに関してなのでがんとして受け付けないというわけです。ふだんはまわりにあわせて従順な子が「食べることに関しては絶対に言いなりになるものか」と自分を押し通す。自己主張をしているのです。

Q:お母さんがそれでも「食べなさい」と言いつづけたり、むりやりに食べさせようとしたらどうなるのでしょうか?

A:一般的に二つの反応が見られます。一つは「がんとして食べない。食べ物を床に投げつけてでも拒否する」という姿がみられます。食事の支度もカロリー計算をしながら自分で作るし、食べるのも一人で食べる。過食症の人とちがって自立してしっかりしているという方向に行きます。由美さんの反応はもう一つのほうでした。お母さんの前では「ほら、こんなに食べたよ」と食べる姿をみせておいて、後でこっそり吐くという手段にでました。お母さんも一時は安心しておられたのですが、吐いていることがわかってしまい大騒動になったそうです。食べても吐くのがばれなければ親にやいやい言われないしやせていられるので、続けているうちに何かをきっかけに過食に移行する人もいます。拒食と過食を繰り返す人、過食のみが続く人、拒食に戻ってそのままの人と三つのパターンがあります。

Q:どうすれば解決の糸口が見えてくるのでしょうか?

A:食べる食べないで親子げんかを続けてもあまりいい方向にはいかないでしょう。由美さんのこだわり意地のはるところが今は食べる領域にありますが、他のことでそれができる領域はないでしょうか。それを探し当てることができたら、少しづつですが変わってくるはずです。由美さんのような意地をはる子こだわる子にどうつきあっていったらいいか、お母さんは今はわかっておられない。このあたりがこれからのアドバイスのポイントとなります。他の領域で意地が通せスッキリした気もちを味わえれば、食べることへのこだわりは消えていくのです。言葉でいうほど簡単ではありませんが。

Q:確かにすぐに解決の光が見えるとは思えませんが、このケースはその後どんな糸口がみつかりましたか?

A:それがみつかった記録の部分を紹介しましょう。このランチセッションから約十ヶ月後のことですが。

続きは。

この続きは次回、第二話その二「治療開始後一年・・」としておとどけします。

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