拒食症だけど過食症になりそう。恐い!でもだいじょうぶ。食べても太らない食べ方見つけたもん」(美香高3、拒食症歴1年)

摂食障害(拒食症)のカウンセリング治療は、大阪にある淀屋橋心理療法センターの「摂食障害専門外来」で行っております。
(大阪府豊中市寺内2丁目13-49TGC8-201(06-6866-1510)
TEL: 06-6866-1510 www.yodoyabasift.com/)

目次

完ぺきな「やせた体型」を求めて、38kgが上限の体重

この拒食症の事例をまじえたお話は、拒食症から過食症になりそうになった美香さんのお話です。「いっときは太る恐怖におびやかされながらも、食べても太らない食スタイルを見つけ出し、『食べてもだいじょうぶ』」という自分なりの切り抜け方法を手にする事ができた美香さんのギリギリの攻防が読みどころです。

拒食症になって一年、美香さんは完ぺきな「やせた体型」を求めていました。毎日お風呂に入るまえに体重を量り、「ぜったいに38kg以上には太らないぞ」そんな思いでいっぱいでした。食べ物やカロリー値についてきびしく制限を決めて、体重が100gでも増えていたら大騒ぎです。「どうしよう体重増えてる、100gも。お母さん、恐いよ~なんとかして~」と、とりすがるように泣き出していました。「100gって、なによそれくらい。大騒ぎしないの」と、母親は背中をさすりながらなだめていました。

拒食症でやせる一方の美香さんを心配した母親は、大阪の淀屋橋心理療法センターにある拒食症専門外来を訪れました。そこには拒食症のカウンセリング治療歴40年の福田ドクターがいました。

「やせたい気持ちは心の支え。そのままでいいです」と福田ドクター

これまでのいきさつを母親から聞いた福田ドクターは、美香さんにやさしく話しかけました。「やせたいという気持ちは、あなたの心の支えになっていますね。今はそれをなくすとか抑えようとかせず、他の支えが出てくるまでそのままでいいですよ」。

「そのままでいい」と言われて、美香さんは思いがけないことを言われたという気がしてぽかんとしていました。「そんなやせた体でどうするの、もっと太らないと」と両親から言われ続けていたからです。

「子どもとの話題は『食べる食べない』と『体重、太ったやせた』は避けましょう」

福田ドクターは今度は母親のほうをむいてアドバイスを出しました。以下はドクターと母親のやりとりです。

Dr.:美香さんとお母さんの話題についてですが、どうしても「食べる食べない」といった食事の話題ばかりですね。これはしんどいでしょう。だんだんと煮詰まって先が見えなくなってしまうと思います。次にくるのは「○グラム増えた、太るのいやだ、やせたーい、お母さんなんとかして~」になると思います。お母さんが意見を言ったら言ったでけんかになるし、黙っていたらいたで子どもは怒りだすし・・・じゃないですか?

母親:はい、おっしゃるとおりです。どう対応していいかわからなくて困っています。

Dr.:親子関係がぎくしゃくすると、これからのカウンセリング治療がやりにくくなるんです。親子で口もきかないという関係になると拒食症の改善に時間がかかります。

母親:先生、でも美香からは「食べる食べない」話しと「体重が増えた、太った」そんなことしか言ってこないんですが。

Dr.:そこがむつかしいところです。美香さんの好きな物の話題なんかをさりげなくとりあげて、そちらのほうで話しがはずむといいですね。何かありませんか?

母親:そういえば猫が好きで、よく遊んでいます。猫の写真なんかとるのが好きだから、そんな話しでもいいですね。

Dr.:そうそう、それはいいですね。「おひな様、きれかったね」とか「ソチオリンピック、おわっちゃったね」とか。

拒食症から過食症になる恐怖にさいなまれて

拒食症の期間を半年過ぎたころから、美香さんは食欲を抑えられなくなってきました。この傾向は美香さんだけでなく拒食症にかかった人のかなり多くにみられるようです。

拒食症は「やせたい」という願望が「食欲」を上回って、だんだんと食べられなく(食べることを拒否するように)なってきます。しかし大抵の拒食症の人がそうなのですが、ときどきたまらなく食べたくなる衝動に駆られます。たべることは本能の一つですから、それを抑えるというのはたいへんな食欲との戦いが続きます。拒食症の人の大変さは、目には見えなくともこんなところに潜んでいることがよくあります。

「食べたい、食べたい、これがほんとの私の気持ちなの」

美香さんはダイエットについては母親も感心するくらいガマン強く、食材も量も守り続けていました。その美香さんが「お母さん、おかずの残り食べてしまった。ゴメンね」「甘い物、目につくとこに置かないで」とか言うようになってきました。これらの言葉は過食症の人によく聞かれる母親への注文です。しかし母親は美香さんが拒食症から過食症へ移行しつつあるということにはまだ気づいていませんでした。

ある日母親が仕事から帰ってくると、美香さんがキッチンでうずくまって泣いています。テーブルにはパンの袋やお菓子の包み紙がちらばったままです。「お母さん、食パン食べてしまった。4枚残ってたの全部食べてしまった。だんだん食べるコントロールできなくなって、置いてあったカステラも全部たべてしまったの。どうしよう。太るよー、いやだー、こわい。お母さん助けて!」

美香さんに泣いてすがりつかれた母親は、なんとか美香さんをなだめなくてはと、必死になりました。

母親:美香、福田先生が『やせたい気持ちを守りながら、ゆっくり進んでいきましょう』って言ってくださったでしょう。一日800kカロリーって無茶なダイエットにこだわるから、反動で食べたくなるんじゃないの。もすこしゆるやかなダイエットを見直していこうよ。(母親は美香さんをなだめました。しかし美香さんはキッとした顔つきで言い返します)

美香:ゆるやかなダイエットですって。なにを寝ぼけたこと言ってるの!お母さんには今の私の気持ちがわからないのよ。食べたい、食べたい・・・これが今の私のほんとの気持ちなの。以前の「食べたくない」拒食症の私とはちがうのよ。

母親:えー、今は食べたいに変わってきたの。それはよかったじゃない。食べられるんだから。

美香:バカー、お母さんのバカ!なんにもわかってないんだから。私もう過食になってしまったよ。太る一方、太るの恐いよー。もうなにもしたくない。しんどいよー、楽しくないよー、助けて!

母親は美香さんの話しを聞いて驚きました。美香さんが拒食症から過食症に変わってしまったというのです。ダイエットにしたがってカロリーを抑えた食事しか食べない美香さんの体を心配して「なんとかして少しでも多く食べてくれないものかしら」と、長い間頭を悩ましていたのです。それが食べられるようになったなんて。「よかった、よかったじゃない、美香ちゃん」と、母親は安堵しているのですが、美香さんは泣いています。

だだをこねるように泣いてすがってくる美香さんを持て余した母親は、どうしていいかわかりませんでした。

「娘はだだをこねる役、母親は答えをだす役」にならないよう

母親は大急ぎで拒食症専門外来にカウンセリング治療の予約をいれました。「美香ちゃんようがんばってるよ。体重ふえたって言ってもちょっとやないの。明日カウンセリングに行こう。福田ドクターがきっといいアドバイスくださるよ」「うん、行く。カウンセリングに行きたい。お母さんごめんね。いろいろ頑張ってくれてるのに、またパニックになってしまって」。

またまたどうしようもなく煮詰まってしまった母親と娘です。こんなときどうしたらいいかわらなくなり母親はカウンセリングで福田ドクターに助けを求めました。

これまでのいきさつをじっくり聞いていた福田ドクターは、母親に二つ美香さんに一つのアドバイスをだしました。

母親へのアドバイス1

前回カウンセリング治療にこられたときにお出ししたアドバイスですが、「話題を『食べる食べない』に限らないよう。さりげなく他の話題を入れる」だったと思うのですが、全然まもられていませんね。『食べる食べない』『太った、太らない』という話しはなかなか答えが出ません。『どうしたら食べずにいられるんやろ。どうしたら体重が減らせるようになるんやろ?』どうしたしたらうまくいくんやろか」とか。そういう話しはたいてい煮詰まり、へたするとこげついてしまいます。今のお母さまと美香さんの様子がそうだと言えます。できるだけ意識してさりげない日常の話題でもりあがりましょう。

母親へのアドバイス2

お母さまは美香さんの投げかけるだだをこねた質問に、答えを出そうと必死になっておられます。「母親は答えを出す役」「娘はだだをこねる役」という役割が定着するのは、病気が治るうえで好ましいことではありません。母親が答えを出す役割ばかりにならないよう気をつけてください。答えの前段階くらいのヒントをだして、美香さんが「どうしたらこの危機を切り抜けられるかしら」と、頭をつかって考えるというふうにしてください。

美香さんへのアドバイス1

美香さんにヒントをあげましょう。「同じカロリーだけど量が多い食べ物」ないかな?さがしてみよう。お母さんにさがしてもらうんじゃなくて、自分でがんばって見つけてみましょう。

気持ちを引き締めた母親「その場しのぎの答えをださないぞ」

福田ドクターにもらったアドバイスは母親の気持ちを引き締めました。「私も美香といっしょになってパニクっていてはいけない。腹をすえて課題をまもり、美香の気持ちを受け止めていかなくては」そして「もうその場しのぎの答えをださないぞ」と心を決めた母親です。

これまでのように「お母さん食べてしまった。また太るかも、どうしたらいい?」と美香さんが言ってきたとき、今まではなんとか答えをださなくてはとあせっていた母親は福田ドクターのアドバイスを頭において、踏ん張ってヒントを出すように心がけました。「美香ちゃん、福田ドクターが言われたヒントだけど、『同じカロリーだけど量が多い食べ物ないかな?さがしてみよう』おぼえてるでしょ?そんな見つけて満足させるっていう手もあるんとちがう?」。この返事を聞いた美香さんはもどかしそうな顔つきになりましたが、首をかしげて「ふーん、同じカロリー?」とつぶやきながら考え込んでいました。

「過食しても、元の体重にもどせる食べ方」見つけた!

そんな母親と子のやり取りが重なってくると、母親に泣いてだだをこねる美香さんから、次第に自分で考え工夫する美香さんに変わっていきました。美香さんは思考錯誤のうえ「過食をしてしまったけど、元の体重にもどせる食べ方」を、自分なりに見つけ出しました。

◉「お母さん、私ね、やってみたことがあるの。朝玄米ごはん半分にへらして、食パン2枚にしたの。そしたらカロリーほとんど変わらないって気がついた。その間に野菜サラダはさんだらいいよね。明日はサラダつくっといてね」

◉「食べたい気持ちが抑えられなくて、食べてしまった。卵も魚もおいしかった。あーあ、どうしようってパニックりそうになったけど、美香ふんばったよ。そうだ晩ご飯ぬいてプロテインだけですませようって気がついて。それで落ち着いたの」そしてじっさいにやってみた結果、翌日には体重は増えていなかったそうだ。

美香さんにとっては太るか太らないかは、生きるか死ぬかくらい真剣な問題。美香さんの拒食症は過食症に移りそうになったのですが、こうしたぎりぎりの攻防が続くなか美香さんは「食べても太らない」ためのいろんな工夫を見つけて行きました。こうした自分なりの切り抜け方法がみつかって、美香さんはずいぶん落ち着いて食べ物を選んだり食べたりできるようになってきました。

「やっと体調ももどってきたし、体重も増えてなかった。福田ドクターに言われたことやってみてよかった。だからお母さんのつくった晩ご飯のこしといてね。あくる朝食べるから。そしたら栄養のバランスもいいし」という言葉に「やせ過ぎ、ダイエットの頑張り過ぎ」を心配していた母親も安心しました。

「ぜったい体重は38kg以下でないと許せない!」とかたくなに信じていた数値についても、美香は「まあ40kgでもいいか」と、やや柔軟な体重を受け入れられるようになったきました。

「また拒食症にもどってしまったわ」と、子どもの体が心配なお母様へ

子どもが拒食症から過食症になって、体重や体の心配をしなくてよくなったと喜んでおられる親ごさんもおられます。ところが再び拒食症に戻ってしまって、「えー、また体の心配しなくてはいけないの」とがっかりなお母さまに対して、福田ドクターは次のように説明しています。

「食べることも少しづつのほうが、子どもの気持ちが安定するのです。また急にしっかりと食べだすと体重が増えて親ごさんは安心されますが、子どもは体重が増えるので不安になったり不機嫌になったりするというリスクもみられることがよくありあります。食べる量も体重も子どもの納得を得ながら、少しづつ進んで行く方が着実に改善していけます。ご安心ください」

2014.03.11  著者:《大阪府豊中市 淀屋橋心理療法センター》福田俊一

               

記事内容の監修医師

淀屋橋心理療法センターの所長 福田 俊一

淀屋橋心理療法センター所長 福田 俊一

  • 医師。精神科医。淀屋橋心理療法センターの所長であり創業者。
  • 日本の実践的家族療法の草分け的存在。
  • 初めて家族療法専門機関を日本で設立し、実践、技法の開発、家族療法家の育成に貢献した。
  • その後は、摂食障害、不登校、ひきこもり、うつ、家庭内暴力(子から親へ)、リストカット等の家族療法の開発に尽力している。
  • 著書多数。

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